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~プロローグ~
-雨が降っている。
(早く止まないかな…)
僕は眞司の話を聞きながら、そんな事を思っていた。
あの日…あの時から、僕は…眞司が僕を捨てる事は分かっていた。
そう…知っていながら、今迄知らない振りをしていたのだ。
眞司はポツリポツリと僕を捨てる為の理由を並べ立てているが、その言葉は僕の耳を素通りしていくだけ。
眞司も自分の下手な言い訳に気付いているのだろう。
先程から口を開いては閉じ、閉じては開いてを繰り返して、話がなかなか先に進まない。
…あの頃から、眞司が苦しんでいる事は知っていた。
そして、僕が捨てられる事も…。
(思っていたよりも、遅かったけど…)
眞司も…僕と別れる事を寂しいと思ってくれているのだろうか…。
(いや…それはないか…)
僕は心の中で自嘲する。
多分…僕に対して後ろめたさがあり、僕なんかいらないと言えないだけだろう。
僕の方はとっくに捨てられる覚悟はできているのに。
…この関係は、もうすぐ終わる…。
あの日から…僕は自分の荷物を少しずつ片付けていった…いつ、捨てられてもいいように…。
眞司の話が終わったら、バッグひとつで出て行く事ができる。
行き先も決まっている。
後は眞司の最後の言葉を待つだけ。
(…ごめんね…)
僕は眞司に心の中で謝る。
眞司を苦しめていると分かっていても、僕の方から離れる事はできなかった。
…でも、それも今日で終わる。
(…今日で眞司は自由になれる)
せめて、最後に涙は見せないでおこう。
これでやっと、眞司を苦しめていたものから、眞司を解放する事ができる。
眞司はこれで自由になれる…。
自由に何処にでも行ける…。
好きな人のところへ…。
自由に…。
(早く止まないかな…)
-雨は、まだ降り続いている。
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