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遠くの夕焼けに初恋、消えたー9

「もう僕の事は気にしなくていいよ。治夫にもそう伝えて」 寧音は黙っている。 「じゃ、勉強、頑張って」 そう言って、僕はその場を立ち去った。 でも。 最後に、寧音の笑った顔が見たかったな…。 そんな事を思いながら階段を下りていた僕は、誰かの視線を感じて顔を上げる。 すると、廊下の曲がり角の所から治夫が顔を出して僕を見ていた。 だから、お前は僕のストーカーかよっ!! 僕はそのまま治夫に近付く。 「寧音とは別れたから」 治夫の顔を見ずに口を開く。 「彼女のこと、大事にしろよ。じゃ…」 そう告げて去ろうとした僕の手首を、治夫の手が掴んだ。 「痛…」 格好良く去ろうとしたのに治夫に強く手首を掴まれた痛さに、情けなくも呻いてしまった。 「痛い…離せ」 「離したら又、近付くなとか言うんだろう」 いつもと違い、怖いくらい真剣な顔をした治夫がそこにいた。 「何…?」 「寧音が隼人の初恋だって言うんなら、俺にとっても初恋だ」 ………え。 そうだったのか…?

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