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恋と嘘と現実とー12
「だって、隼人。治夫君に面会できると聞けば、すぐ会いに行ったでしょう?」
母親は頬に手を当てて困ったように僕を見た。
「当たり前だろ」
「…だから、黙っていたの」
「だから、どうして」
「…治夫君を混乱させない為に黙っていたの」
治夫を混乱させない為…?
…意味がわからない。
戸惑う僕を見詰めた母親は、躊躇いながらも話を続ける。
「…治夫君ね…隼人の事を覚えてないの」
…………………………。
………え………。
言われた事の意味がわからなかった。
頭の中が混乱する。
「………え……何…記憶喪失って事?」
「…記憶喪失とは少し違うんじゃないかしらね…隼人以外の事は全て正常に覚えているらしいから」
…………………………え…………………………。
「隼人に関する記憶だけないらしいの」
………………………………………。
……………嘘だ………。
治夫が僕の事を忘れるなんて…。
そんな事、あるはずがない。
「隼人!待ちなさい!!」
考えるより先に体が動いていた。
母親の静止の声を振り切り、僕は家を飛び出した。
治夫が僕を忘れるなんて…。
そんな事…。
そんな…。
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