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恋と嘘と現実とー38
「…隼人」
久し振りに聞く。
恋しくて…懐かしい声。
でも、振り向いて顔を見る勇気がない。
…顔を見たいのに…。
僕にはその資格がないから。
「隼人、やっと会えた」
声が近付いてくる。
僕は振り向く事ができない。
その場に固まったまま、動けないでいる。
「…最近、いつもアイツと一緒に居るからさ。隼人が一人になるのを待ってたんだ」
…油断した。
放課後。
千尋と一緒に居たくなくて、担任に用事があるからと職員室に一人で寄った帰りの廊下で(いや、本当に用事はあったんだけどね、進路の事で)、治夫に声をかけられた。
「…一緒に帰ろう」
治夫に掴まれた手首が熱い。
僕は俯いたまま、治夫に手を取られて廊下を歩く。
「…隼人は何故、アイツといつも一緒に居るの?」
僕の手を引いて前を歩いている治夫が聞いてくる。
僕は俯いて下を向いているし、治夫は僕の前を歩いているから…当然、治夫がどんな顔をしているのか、わからない。
「……………」
治夫の質問に、僕は答える事ができない。
「…アイツの事…好きなの…?」
僕はその問いに思わず顔を上げて、治夫の背中を凝視した。
治夫は振り向かない。
治夫は…僕と千尋の関係に気付いている…?
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