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恋と嘘と現実とー40
「…違うの…?」
治夫がゆっくりと振り向き、僕を見る。
その真っ直ぐな視線に耐えきれず、僕は俯く。
治夫の手は、僕の手首を掴んだまま。
「…違う」
僕が好きなのは、治夫なんだ。
そう言えたら…。
……………言えないけど。
「…そうか、違うんだ」
治夫はそれ以上、千尋と僕の関係を聞いてくる事なく歩き始める。
治夫に手首を掴まれたままの僕も、黙って引っ張られていく。
だが、僕の頭の中は。
…よりによって治夫に見られるなんて。
最悪だ…。
最悪だ。
最悪だ!
その事ばかり。
治夫に見られたショックから立ち直れないまま治夫に手を引かれ、歩いていく。
だから気が付かなかった。
治夫と手を繋いでいる事に。
そして、手を繋いで歩いている僕達を皆が見ていた事に。
そんな僕達を彼女が見詰めていた事にも。
僕は気付かなかった。
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