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恋と嘘と現実とー45

脅されたからといって、千尋と関係を持ってしまうなんて…。 その行為は治夫を裏切る事になるのに…。 僕の記憶を失った今の治夫じゃない。 僕の記憶を失う前…僕に好きだと言ってくれた治夫を裏切る行為だったのに。 今は馬鹿な事をしてしまったと後悔している。 …後悔しても、過去は消せないけど…。 「…僕を脅しても無駄だって事だよ。もう、千尋の言いなりにはならない」 「……いいのか?治夫に知られても」 「………バラしたければ、バラせば?」 まだ半分も食べていない弁当箱を仕舞い、立ち上がる。 もう用事は済んだ。 この教室にいる必要もない。 別の場所に行って、弁当を食べよう。 そう思い、席を立って出ていこうとした僕は腕を掴まれ振り替える。 「………何?」 思わず、冷たい声が出た。 「…あ、いや…」 …どうしたんだろう。 僕の腕を掴んだ自分の手を見て、千尋も戸惑っているみたいにみえた。 それでも僕の腕を掴んだまま、放してくれない。 何か言いたそうに、口を開いたり閉じたりしている。

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