88 / 144

恋と嘘と現実とー47

「隼人!大丈夫か?」 「…何が?」 「…いや…隼人のクラスに行ったら、隼人は松山と出ていったって聞いたからさ…」 …千尋と一緒にいる僕の事を心配して、捜していたのか…。 …馬鹿だな…。 そんなに息を切らして、汗を流して…。 僕を捜して…。 「…大丈夫か?」 ……ああ…やっぱり僕…治夫の事、好きだなあ…。 「うん、大丈夫」 「…本当に?」 心配そうに僕を見詰める治夫に、笑って答える。 「うん…本当にもう、大丈夫だから」 「…そうか」 「うん」 …やっぱり、この想いは隠しておこう。 僕と治夫は幼馴染みで、親友。 それでいいや。 僕の記憶がないのに、僕の事を友人で親友だと思い、心配して捜してくれる。 それで十分。 恋人なら別れる事があるかもしれないけど、親友は一生、親友だ。 それでいいや。 治夫と並んで廊下を歩き始めた僕は、溢れそうになる涙を隠すため、顔を窓の外に向ける。 ……僕と治夫はお互い、擦れ違いの片思いだったな…。

ともだちにシェアしよう!