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瞳の中、君にー9

…確かに、その拗ねる姿は可愛いく見えない事もない。 だが、そうしながらも寧音は俺に気付かれないように隼人を睨んでいる。 寧音に睨まれて、隼人は俯いたまま、オズオズと口を開く。 「…いいよ。僕、今日は弁当だから。治夫は寧音と二人で学食に行ってこいよ」 …嘘つき。 弁当なんて、持ってきてないくせに。 悪いけど、俺は寧音と一緒に仲良く昼飯を食べるつもりはないんだ。 「じゃ俺、売店でパン買ってくるから、待ってて」 俺の言葉に、隼人は俯いていた顔を勢いよく上げ、吃驚した瞳で俺を見た。 その時。 「待ってよ、治夫。隼人もいいって言っているんだし、一緒に学食に行こうよ」 またしても、というか…。 寧音の焦ったような声が聞こえた。 俺は今日、何度目か分からない溜め息をまたしても、心の中で吐く。 …まったく。 最近の寧音には、イライラさせられる。 俺が隼人と一緒に居ると、必ずどこからか現れて俺と隼人の間に入ってこようとする。 …まるで俺が隼人と仲良くする事を阻止しようとでもしているみたいに…。 「悪い。俺、もう昼を隼人と食べる約束したから…寧音とはまた、今度な」 「………わかった」 俺の言葉に寧音は、悔しそうな顔をして渋々と頷き、最後に隼人を横目で睨んで去っていった。 …それが、付き合っていた元彼に向ける目か? ―隼人と寧音が付き合っていた事は、本当らしい。 それは、二年の時の隼人のクラスメイトだった何人かに聞いて分かっている。 「…治夫」 「…大丈夫だよ。心配しなくても、後でフォローしとくから」 心配そうな顔をして俺を見る隼人を安心させる為、微笑む。 …おかしいじゃないか。 何故、寧音が隼人を睨むんだ。 何故、隼人が寧音に遠慮するんだ。 なんか…おかしいんだよな。 俺は横で俯いたまま、立っている隼人を見詰める。 「じゃ、とりあえず俺、売店へ行ってくるから」 …ついでに隼人の分も、買ってこよう。 そう思いつつ、隼人に声をかける。 すると、隼人は弾かれたように俯いていた顔を上げて俺を見た。 ……………? -何か言うのかと思って少し待ったが、何も言う気配がなかったので、俺はそのまま教室を出ようとした。 その時。 「…あ、あの~…」 隼人の控え目な声が聞こえた。 「………」 振り向いて隼人を見ても、隼人から言葉は出てこない。 「………」 「………」 口を開いては閉じ、閉じては開いてを繰り返している。 「………」 「………」 俺は急かさず、待った。 だって、隼人の方から俺に話しかけてくるのは初めてだ。 隼人の方が、俺を避けているみたいであまり校舎内で隼人に会う事がない。 いつも俺が隼人を探して、話しかけるも俺の方から。 だから、こんな機会は滅多にない。 それに、顔を紅くして口をパクバクと金魚みたいに開いたり閉じたりしている隼人は可愛いし。 見ていて、飽きない。 少しして、隼人は意を決したように俺を見た。 「…あ、あ~…ごめん。僕も、売店へ…」 …………………………。 「……………」 …うん、そうだね。 「…一緒に行こうか」 俺のその言葉に、隼人はパアッと嬉しそうに笑う。

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