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いつか、君の声がー8

-白い病室の中、ベッドの上にいる俺よりも青白い顔をして、寧音が睨んでいる。 『私だって初めて会った時からずっと治夫が好きだったわよ!!』 『-どうやったって治夫は振り向いてくれないんだもの!!』 涙を流しながら告白した寧音を見ても、俺の心は何も感じない。 今だって涙を溜めて俺を睨んでいる寧音の瞳を黙って見詰めているが、何も思わない。 それよりも、俺が記憶喪失になっている間、俺の両親やクラスの皆に俺と寧音が付き合っていると嘘を吐いた事が許せない。 俺は黙って責める視線で寧音の瞳を見詰め返す。 -先に視線を逸らしたのは寧音だった。 唇を噛んで横を向く。 「…いいわよ、皆に私達は付き合ってないって言ったらいいんでしょ…言うわよ、私の嘘だったって…でも………そしたら治夫と隼人の事も言うから…皆に…治夫の両親だけじゃない…隼人の両親にも…全て喋ってやる…」 (………そうきたか) 寧音の事だから黙って引っ込むとは思っていなかったけど。 でも、大丈夫。 これも、俺にとっては想定内。 小学校の頃から一緒だった寧音の性格は、よく知っている。 …幼い頃から可愛くて皆から好かれていた寧音は俺と出会った頃には既に大きな猫をかぶっていた…寧音自身は誰にも気付かれてないと思っているけど…俺だけは見抜いていた。 何故なら、俺も猫をかぶっていたから。 だから、隼人を含め皆が寧音の可愛さにメロメロになり、寧音をちやほやしている中、俺だけは寧音を甘やかす事なく、普通に接していた。 その頃からだ。 寧音が俺に興味をもったのは。 多分、皆が寧音を女王のように扱う中、俺だけが寧音の言う事を聞く事なく平然としていたので寧音のプライドは傷つけられ、俺に執着するきっかけを作ってしまったんだろう。 寧音のソレは恋でも愛でもない。 ただの執着だ。 昔から自分を振り向く事がなかった俺を、自分の足元に跪かせたいだけ。 俺がひと言、寧音に告白すれば寧音は満足して俺に対する執着なんてアッというまになくなってしまうだろう。 それはわかっている。 ………でも、無理。 言えない。 しようがないよな。 嘘は吐けない。 あの頃も、今も、俺には好きな人がいるんだから。

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