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いつか、君の声がー10

-熱が引いて、すっかり元気を取り戻した僕を見て、母親は大きな溜息をひとつ。 『…高校生にもなって知恵熱を出すなんて…いつも頭を使ってないから、たまに頭を使うとそんな情けない事になるのよ…そんなんで本当に大学へ行けるの?…っていうか、大学へ行くつもり?…その前に受験、するつもり?』 …余計なお世話だ。 (結局、治夫からは見舞いどころか、連絡もなかった…) …治夫だけじゃない。 寧音も何も言ってこない。 (どうしたんだろう…?) 胸の中がモヤモヤして、不安で胸がいっぱいになる。 治夫に会って僕を避けている理由を聞きたいような…聞くのが恐いような…治夫に会って顔を見たいような…見るのが恐いような…。 だから学校へ向かう僕の足も、自然と重くなり。 …やはりというか、いつも僕を治夫が笑顔で待ってくれていた場所にも、その姿は見えず…。 (…別に、期待していたわけじゃないけどさっ) 微かな期待を裏切られて、悔し紛れに心の中で呟いた。 その時。 「…ねぇ、ねぇ」 後ろから肩を叩かれ、声をかけられる。 振り向くと、見覚えのある女性が2人。 (確か、治夫と同じ特進クラスの…) 顔は覚えているけど、名前が出てこない。 必死で名前を思い出そうとしている僕に、2人は顔を近づけ、目を光らせて。 「「佐藤君と神田さん、別れたの!?」」 見事にハモり、聞いてくる。 その、あまりにも興味津々な2人の顔に僕は少々、ムッとしてしまう。 でも、それよりいまだに2人が付き合っているなんてデマが流れている事が許せない。 「…別れたって、何?…元々、2人は最初から付き合ってないし…」 その噂は治夫が記憶喪失になったスキに寧音が広めた嘘だし。 この機会に訂正しとかないと…。 「「…やっぱり~!!」」 僕の言葉を聞くなり2人、またも見事にハモりお互いの手を叩き合い、飛び跳ねて喜んでいる。 その2人の反応に驚く僕。 (…やっぱりって……) 「………知っていたの?」 (治夫は皆にバレないようにと隠していたみたいだけど…そうだよな~、治夫が好きな人は僕だし、見る人が見たらわかる……) 「「だって、佐藤君、この前、カあンけナみと腕組んで歩いていたし」」 ………………………………………………………ん? 何だって? 誰と治夫が腕組んで歩いてたって? 2人とも双子かってくらい(句読点まで一緒)息ぴったりに口を揃えて話しているのに、肝心なところが聞こえなかったぞ? そう思ったのは僕だけじゃなかったらしい。 2人ともお互いの顔を不思議そうに見詰めている。 「…カンナでしょ?」 「何、言ってんの?あけみでしょ」 ……………………………………………………。 ……………………………………………………。 ……………………………………………………。 一瞬の沈黙の後、2人、ぐりんって凄い勢いで僕の方を見ると、同時に口を開く。 「「………どういう事!?」」 またしても2人、綺麗にハモり。 -2人、付き合っているのか…?との考えが僕の頭を過ったが。 そんな事より、大事な事。 …………………………ええ~!? カンナって誰!? あけみってどういう事!? 僕じゃないの!?

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