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泣かないで、マイ・ラブ-9

可愛い女性の出現に、出ていく機会を逸した私は人混みの中に隠れたまま、2人の後ろをついていく。 「……ちょっと、待ってよ」 ……………誰だろう? 「…………………………」 そういえば以前に彼女が寮に彼を訪ねて来たけど顔も見ずに追い返したって言ってたけど……もしかして………。 「……ちょっと待ってって言ってるじゃない」 治夫の腕に縋り付く女性の手を振り払う。 その仕草が吃驚するほど激しくて。 「………どういうつもりだ」 彼女を見る治夫の瞳の冷たさに。 隠れて様子を見ていた私の方が血の気が引いてしまう。 「………何が?」 それなのに、彼女の方は平気な顔をして治夫の顔を見詰めている。 「……俺の彼女だなんて嘘吐いて………どういうつもりだ」 冷たい視線に、冷たい声。 初めて目にした。 私なら思いっきり泣いてしまいそうな視線にも彼女は平気な顔で。 「…だって、そうでも言わないと寮に入れてくれないと思って……」 彼女は甘えた声を出し、上目遣いで治夫を見詰める。 …………………………なんて強者。 私は顎が落ちるかと思う程、驚いた。 私ならあんな冷たい眼差しで見られたら、その場に凍りそうなのに。 彼女は平気らしい。 それどころか、長い髪をかきあげて横目で治夫を見詰める。 ………………初めて見たけど、あれが流し目………色っぽい………。 私が男だったら、ふらふら~と………いや、女でも…………………………。 そんな事を思いながらぼ~っと彼女に見惚れていたら。 バチッと。 彼女の向かいにいる治夫と、目が合ってしまった。 ……………あれ……………?

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