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 こちらは一週間前の生放送後の聖南である。  聖南は部屋の灯りも付けずに、ソファにだらしなく座り込んでいた。  自宅は広々としたリビングとオープンキッチン、寝室、バスルーム、衣装部屋、書斎がある。  数日前まで、訳あって事務所から住めと言われて住んでいたワンルームマンションに居たが、手狭になってきて引っ越しを考えていたものの、なかなか気に入った部屋が見付からなかった。  いくつも見て回ってやっと気に入ったこの部屋にはつい最近住み始めたばかりで、まだあまり生活感がない。  質素過ぎて余計に広く見えてしまうほどのリビングに、ポツンと置かれた一人掛けソファに居る聖南の脳裏には、葉璃の横顔とパフォーマンスが繰り返し浮かんでいた。 「はぁぁぁ。 話だけでもしたかったなー」  あんなにもさっさと帰ってしまうなんて、予想外過ぎて付いていけなかった。  成田は役立たずで、なんで引き止めてくれてないんだと感情のままに言うと、 「来週またmemoryさんと収録被ってるから! そこでチャンス作りましょう!」  などと怒りを削ぐ嬉しい情報を、らしくない敬語を混じえてくれたので、ひとまず許しておいた。  少し目尻が上がり気味の印象的な瞳が、聖南を捕らえて離さない。  瞳を閉じると鮮明に思い浮かべる事ができてしまうほど、衝撃的なまでにタイプだった。  アキラもケイタも半ば呆れ気味だったのは分かっていたけれど、そんな事を気にしていられるほどの余裕など無かった。 「あー……チューしてぇ……」  実物のあの子に、この手で触れてみたい。  あわよくば、何とか付き合う方向に持っていきたい。  聖南の心はまさに葉璃に染まりつつあったが、それは春香に化けた葉璃である。  そんな事など知らない聖南は、両手を宙に彷徨わせて抱き締める動作をした。  妄想が行き過ぎて、傍から見るとかなり危ない人だ。 … … …  CROWNは、セナ、アキラ、ケイタからなるボーカルダンスグループで、三人とも幅はあるが子どもの頃から芸能界に居るので、二十代そこそこですでに皆平均して十五年ほどのキャリアを持つ。  一番芸歴が長いのが聖南で、これもまた訳アリの父親が広告代理店のお偉いさんという繋がりがあるためか、何も分からない0歳の頃からCMやポスター、企業イメージモデルを勤めていた。  アキラは五歳でドラマデビュー、ケイタは七歳で舞台デビューと、それぞれ経歴は少しずつ違うが、小さな頃から事務所内で会う事も多かったので一緒に育った兄弟同然だ。  聖南が高校入学の年に、事務所社長から突然グループ結成を言い渡され、CROWNとしては七年ほどとあまり熟してはいない。  しかしながら、これまでの活動での認知度と三人の抜群のルックスで、デビューするやいなや特に若年層の男女から爆発的に人気を獲得し、現在に至る。  三人ともが芸能界の荒波をよく知っているので、業界関係者からの信頼も厚く、番組出演や取材の依頼があとを絶たない。  聖南の日常は、CROWNに始まりCROWNで終わるというほど仕事仕事の毎日だったが、演技が出来ないと悲観していた身としては、芸能界を去り時かもと思っていた矢先のありがたい方向転換に毎日が充実している。  曲を生み出す作業も、パフォーマンスも、CROWNに関わるすべての事が今は生き甲斐だ。  そんな聖南は衝撃の出会いから三日間、夕方から夜にかけての短い時間だが事務所で作曲担当の川上と打ち合わせを行っていた。 「なぁ聖南。 もっと抽象的な言葉がいいんだけど……」 「え? これよくないっすか?」 「いやマズイって。 誰に向けた曲だってなるよ。 ほらここ、「早く会いたい、好きじゃ足りない、愛してる」とか「寝顔も可愛い」とか」 「あー寝顔はまだ見た事ないんだよなぁ、残念ながら。 俺の妄想ではめちゃくちゃ可愛かった」  半年後にリリース予定の新曲の打ち合わせ中、作詞を担当している聖南が甘ったるい恋愛小説のようなものばかりを生み出すせいで、川上は頭を抱えていた。  CROWNはまだ、ずっしりと重たい恋愛ソングを発表した事がなく、歌詞には意味があるようで無いような、今風のポップで明るいダンスナンバーが主だ。  それがいきなり、こんなキュンキュンもののラブソングを世に出すのは、まずは制作スタッフ等から何事だと言われかねない。  しかもこの歌詞は聞けばほぼ妄想らしく、余計に頭が痛い。 「ヤバ!! また浮かんできた!」 「も、もう大丈夫。 それはそっちの聖南用のノートに書きなさい」 「やっぱダメ? 一生腕枕していられるよ、ついでにおでこにキスしちゃおって」 「ダメ」  作詞担当の聖南がこの調子では、先に進まない。  今回はもう、デビューを手掛けた作詞家に急遽お願いするしかないかもしれない。  その可能性を考えつつ、もう少し様子を見てみようと、雑誌の取材に向かった聖南の後ろ姿を見送った川上は深いため息を吐いた。  ボツにはなったが、満足いく歌詞がたくさん浮かんでご機嫌な聖南は、成田が運転する車内でも瞳を瞑って葉璃に会いに行き、日に日に気持ちを高めている。  次に被る収録では、絶対に話をしようと決めていた。  memoryはメンバーが多く居たようだから、怪しまれないように葉璃と連絡先を交換するまでがミッションだ。  一人の時を狙うのが難しそうで、綿密に成田と打ち合わせをしなくてはならない。  もはやCROWNの事で動くよりも、葉璃との接触が聖南の中での優先順位第一位だった。

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