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困惑させるつもりはなかったのだが、女性グループとの接触がこんなにもハードルが高い事だとは思わなかった聖南も、少なからず動揺していた。
そうは思いつつも、拉致した手前もう後には引けない。
昂る想いを伝えるためには仕方がないと自身の行いを正当化し、警戒されぬよう努めて優しく微笑んで見せた。
「連絡先……聞きたいんだ。まずはお友達からって事で。……どう?」
何が〝どう?〟なのかは分からないが、柄にもなく緊張した聖南が捻り出した誘い文句に、ハルカは一層困惑の表情を浮かべている。
だが案外と、ハルカの返答は早かった。
聖南が見逃してしまうほどのスピードで、ハルカはぷるぷると首を振ったのだ。
「……え?」
百戦錬磨の、聖南の今までの自信が粉々に砕け散った瞬間だった。
話は終わりとばかりに急いで部屋から出て行こうとするハルカの左腕を掴み、必死で引き止める。
「ま、待ってくれ! こんなこと急に言われても困らせるだけだって、俺も分かってんだ。でも好きになっちゃったんだよ! 一目惚れなんだ!」
「…………」
「声も……聞かせてくれない?」
「…………」
もはや恥も外聞もなく、聖南はこの手を離すとすべてが終わりになるであろう恐怖に、我を忘れて告白までしてしまった。
ハルカは無言のまましばらく聖南の顔を見ていたが、そっと腕を引いて部屋の中央にあるテーブルまで歩いていく。
そして、置いてあったメモ用紙に何事かを書いて聖南に手渡し、一礼すると、静かに部屋を出て行った。
扉の閉まる音が、まるでエコーがかかったように無情に聞こえる。
ガックリと肩を落とした聖南は、渡されたメモ紙を恐る恐る開いた。
「〝今からミーティングがあるので、三十分後にまたここで〟……?」
文章の意味を理解するなり、死にかけた聖南の表情はパァッと明るくなった。
今この時で終わりにならないという希望が、心を踊らせる。ドラマの様な展開に、興奮を抑えられない。
誰も見ていないのをいい事に、その場でガッツポーズし小さく「よっしゃー!」と叫んだ。
「まだ付き合えるって決まったわけじゃねぇけど! こんなに嬉しいもんなのか……!」
三十分後、再びやって来たハルカに何を言われるか分からないのだが、嫌だと思う相手に希望を持たすような事はしないはずだと、聖南は決め付け喜んだ。
自分の出番まであと少し、猶予があるはず。
絶対に今日、ハルカをものにしてみせる。
── 俺の初恋、何がなんでも成就させてやる!!
頭から片時も離れなかったハルカの事を、どうしても手に入れたいと切実に願う聖南は、三十分など一瞬だと高らかに笑った。
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