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目の前の超色男……誰もがカッコイイとため息をつくほどのアイドルグループ「CROWNのセナ」を前に、俺はどうしていいか分からずにいた。
たった今二度目の告白を受けたけど、疑うというより信じられない気持ちでいっぱいなんだ。
こんな夜中にいそいそと出て行った春香が心配で後を付けてみれば、やって来たのはなんとあのセナで。
ここ何日も、口には出さなかったけどセナの事でソワソワしていた春香だ。
ついにうまくいってるのかと、声までは聞こえないまま様子を窺ってたら次の瞬間、二人はいきなり抱き締め合った。
生々しい光景を目の当たりにした俺は、邪魔しちゃいけないから帰ろうと動いた時にセナに見付かってしまって。
かと思ったらすごい勢いで追い掛けてきて、自分でも驚くほどの速さでセナから逃れると、帰宅してベッドに落ち着きそのまま動けなくなった。
セナはまだ春香の事が好きなんじゃないかと、少なからずそそのかしてしまった俺が、なんでこんなにも動揺してるのか全然分からない。
春香がセナとうまくいったなら、喜んであげないといけないのに……。
「葉璃?」
セナは俺の足元のカーペットの上で胡座をかき、ベッドに腰掛けた俺を見上げてきて、さらに戸惑った。
こんなにカッコイイ人が、なんで俺なんかの事を好きだって言うんだろう。
「そのまま聞いてくれ。 あのな、葉璃は誤解してる。 確かにハルカに一目惚れしたけど、それは間違いなく葉璃にだ。 なんかすげぇ自分に自信ないっつーか、根暗っぽいその中身も俺にはたまんねーの」
トン、と人差し指で俺の鼻先を押されて、気恥ずかしくなる。
「あれからずっと葉璃の事だけを考えてた。 あの一目惚れした日からずっと」
セナの大きな掌が俺の手を取って、ぎゅっと握ってくる。
はじめは見詰め返せてたのに、熱すぎるその視線から逃げるように俺は俯いてしまった。
なんで俺なんだよって気持ちは抑え切れなくて、何と応えたらいいか分からない。
「葉璃、こんな事言っても困らせちまうだけだって俺も分かってんだ。 だからな、マジなんだって事だけは分かっててほしい」
一見チャラそうなセナが、初めて共演した日からずっと変わらず俺だけを見ていたと知って、これは現実なのかと信じられない気持ちでいっぱいになる。
恐る恐る、もう一度セナの目を見た。
熱っぽい濡れた瞳がひたすら俺だけを見詰めていて、これはもう疑う余地はないのかもしれないと悟った。
俺の勘違いじゃなく、本当の本当に、春香ではなく俺自身の事が好きなんだって十分過ぎるほどに伝わった。
「…………了解しました」
考えに考えた末に口から出たのはこんな意味不明な返事で、当然セナは「はぁ?」と困惑し、しばらく俺を見詰めて……ついにはお腹を抱えて笑いだした。
「あははは……! ……いやぁもう、最高。 やっぱ好きだわ。 なんだよ、了解しましたって……」
ゲラゲラ笑っているセナを、俺は呆然と見ている事しか出来ない。
確かに今言うべき言葉ではなかったけど、そんなに笑わなくてもってくらい、涙を拭いながら笑っている。
「……笑い過ぎでしょ」
「お前が笑わせるからだろっ。 はぁ、なんか一気に気抜けた」
この部屋に漂っていた、ただならぬ緊張感を崩せたのは良かったけど、別の意味でめちゃくちゃ恥ずかしい。
ひとしきり笑ってお腹を擦っているセナが、ふと立ち上がる。 俺の隣に腰掛けて、ベッドのスプリングでぽよんと体が弾んだ。
「なぁ葉璃、俺と付き合お? 俺もお前も男だけど、好きだったら関係ねぇだろ?」
「…………俺は、好きって言ってないです……」
「んや、あの時の葉璃の顔見たらまんざらじゃないの分かるって。 キス、嫌じゃなかったろ?」
強引なアタックに動揺していたところに不意打ちで図星を突かれて、見事にあの時のキスが蘇ってきて顔が熱くなるのを感じた。
耳まで赤くなってやしないかと、両耳を押さえる。
「なっ、……まぁ、嫌ではなかったですけど……。 でも、……」
「でもは聞かねぇ」
「し、しかし、……」
「しかしも聞かねぇ。 ……しかしって……ぶふっ……!」
キスは嫌じゃなくても、目の前でケラケラ笑ってるセナの事を好きかどうかなんて、まだ分からない。
人を好きになるのに性別は関係ないと俺も思うけど、相手があのテレビの中の人、CROWNのセナだから余計に現実味がないんだよ。
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