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はっきりとした返事をしないでいると、セナの口から思わぬ台詞が飛び出す。
「もう一回キスしてみる? 嫌だったら殴っていいよ。 それはもう条件反射だろうから、殴られたら脈ナシって事で俺も諦める」
「え…………」
「ただし、嫌じゃなかったら俺の背中に手回せ。 出来るな?」
そ、そんな大それた事、できるわけないじゃん!
背中に手を回すって、それはもう抱きしめろって事だ。
いかにも、簡単だろ?って言わんばかりだけど、俺には難易度が高過ぎる。
「俺は今日この時を死ぬほど待ってたんだ。 葉璃の事好きだし、マジで付き合いたいと思ってるけど、葉璃が嫌だと思うなら俺はもう諦めたいんだ」
「………………」
「葉璃本人が分かんねぇなら体に聞くしかないじゃん? って事で協力しろ」
「……ぇ、ちょっ、っんんーーっっ」
両頬を捕らえられ、セナの整った顔がアップになったと思ったらその一瞬後にはキスをされていた。
あの時と同じ、温かくて柔らかいセナの唇が俺のと触れ合ってるなんて信じられなくて、しかもセナはジッと俺を見ている。
この超至近距離で視線が合うと猛烈に恥ずかしくなって、俺はその姿を視界に入れないように目をギュッと瞑る事にした。
「……ん……んん……っ」
───それより何より、どうしよう……。 全然嫌じゃない。
あの時も思ったけど、このあったかい毛布に包まれたような感覚は気持ち良いとさえ思ってしまってる。
チュッ、チュッ、といやらしい音を立てながら向きを変えて唇を啄まれ、いたたまれない。
閉じていた唇がわずかに緩んだ隙にセナの舌が侵入してくると、いよいよ鼓動が早くなってきたのを感じた。
ゆっくり俺の舌と絡ませて遊び、上顎をチロチロと舐め、また舌を絡ませてくる。
必死でその舌を追っていると、握り拳を作っていたはずの俺の両腕が知らず知らずのうちにセナの背中に回っていた。
何だかもう、この甘くて蕩けそうなキスに夢中だった。
俺だけじゃなく、セナにも抱き締めてほしい。
……セナも、ぎゅってしてよ。
背後に回った俺の腕の感触を感じたセナは、唇を離さないままニヤリと笑い、それからすぐに痛いほど抱き締めてきた。
力強いその腕から確かにセナの体温を感じて、夢見心地だ。
密着状態でこんなに濃厚なキスをしてると、下腹部がどうしても反応し始めたのは分かってたけど、さすがにそんな事バレたくない。
座ったままだから大丈夫、バレてない、よね……?
あの時とは比べ物にならないほど熱く長くキスをした俺達は、名残惜しいと互いの思いが以心伝心したかのようにゆっくりじわじわと離れた。
「殴んなかったじゃん」
「……嫌じゃなかったですから……」
「ちゃんと抱き締めてくれたな。 お利口さん」
「………………」
セナは心なしか嬉しそうに、俺の頭をヨシヨシしてきた。
子ども扱いするなって怒ってもいいはずなのに、セナの掌は優しくて温かくて、照れしか生まない。
喜びに満ちてニヤニヤしたままだったセナの顔が急に真剣になって、また俺をぎゅっと抱き締めてきたかと思うと……反則級に艶めいた声で耳元でこう囁かれた。
「俺マジだから。 葉璃、マジで好き」
「も、もう、分かりましたからっ」
「これでもまだ疑うか?」
「……疑わない、です……」
こんなに、まるで大切なものを扱うように抱きすくめられた後では、もはや疑うも何もなかった。
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