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 正直まだ、好きなんて気持ちは分からない。  でも俺は……春香を言い訳にしてずっとセナの事を考えてた。 テレビでも、教室内でも、「CROWN」や「セナ」の名前を頻繁に耳にしてると、忘れたくても忘れられなかった。  男とのキスが嫌じゃなかったなんて、答えは出たようなものだとセナは笑うんだろう。  それでも、信じられないって思いは根底にあって、セナの気持ちに応えていいもんかこの期に及んでもまだ迷っていた。 「ならよし。 葉璃、スマホ出せ」 「えっ、あ、はい」  宿題の途中で調べものをして机に置いたままだったスマホをセナに渡すと、何やら操作し始めた。  何してるんだろ、とセナの手元を覗き込むと、彼も自分のスマホを取り出していて、知らない番号を打ち込んでいた。 「何してるんですか?」 「俺の番号入れてる。 葉璃と連絡取れないのが一番キツかったからな」  そ、そうなんだ……。  セナが俺にやたらと会いたがってるぞって佐々木さんから聞いてたけど、ほんとだったんだ。 「はい、これ俺の番号な。 毎日連絡すっから、暇できたらちゃんと返事返せよ?」 「毎日ですか!?」 「もちろん。 俺仕事中は電話出らんねぇ事あるかもだけど、合間見て返すから」 「そんな毎日しなくても……」  何だか早くも縛られ始めた気がして、性格的にマメな方じゃない俺は毎日と言われてもちゃんと返す自信がない。  しかもきっと多忙だろうセナ相手に電話だなんて恐れ多くて、俺から掛ける事なんかまずなさそうだ。  そう思ってたら本音が出ちゃってたんだけど、見事にセナはプンプン怒り出した。 「あぁ? 何言ってんだ! 俺は四六時中葉璃と一緒にいたいけど、実際無理なんだから連絡取り合うしかねーだろ!」 「ちょっ、シーッ! 声大きいっ」 「……おぉ、悪りぃ悪りぃ。 葉璃がビックリする事言うからついな。 とにかく葉璃はまだ高校生だろ? 一緒に住むのは卒業してからだな」 「い、一緒に住む???」 「当然だろ」  まだ俺がセナに好意を伝えてもいないうちから、どんどん話が大きくなってる。 ちょっと怖くなってきた。  しかも一緒に住む理由というのが…。 「とにかく変な虫が葉璃につかないようにしたいからな。 葉璃さぁ、変顔しながら歩くとか出来ねー? そのまま歩いてたらナンパされんじゃないの」  男の俺がそんな心配される事なんかないと思うけど、セナは大真面目だ。  しかも変顔しながら歩いてたら変人扱いされて俺が捕まっちゃうって。  そう思いながら、日々を振り返ってみる。 「……ナンパっていうか、一緒に遊ぼって声掛けてくれる人は結構居ます。 みんな俺が一人で歩いてたら可哀想だと思うんですよ、きっと」  俺はずっと目立たずコソコソと生きてきたから、下を向いて歩きがちなのは唯一の友達である恭也や春香からも注意されていた。  前を向いて歩くにしても、「何か怒ってる?」って聞かれるほどいつも仏頂面みたいなんだけど、周りにどう言われても特に気にならない。  俺から負のオーラが漂いまくってるみたいで、ちょっと人通りの多い場所を歩くとそういえば知らない男から声を掛けられる事は少なくなかった。 「はぁ? それナンパじゃん。 まさか付いて行ったりしてねぇだろうな?」 「行かないですよ。 俺めちゃくちゃ人見知りだから……」 「それでいい。 あーあ、なんでこんなに可愛いく生まれてきたんだろうな。 男だって分かってんのになぁ」 「いや俺なんか可愛くないし……」  子どもでも女性でもない俺に、可愛い可愛いと何度も言うセナがやっぱり信じられなくて、苦笑いしか出てこない。  同じ顔なんだから、春香と付き合えばいいのにって言ってしまいそうになるけど、それを言うとまたセナが怒り出しそうな気がしてやめた。  ジーッと穴が開くほど見詰められると、照れてどうしようもなくなる。  居心地悪くて視線を逸らして俯いてしまえば、フッとセナは気障に笑った。  その屈託のない笑顔は成人した大人の男性というより、同学年にすら見える無邪気さで、一瞬ドキッとしてしまった。 「じゃ、俺帰るわ」  俺の頭にポン、と手を乗せて、いつものように髪をぐしゃぐしゃってしたかと思ったら立ち上がってまた笑いかけてくる。 「え……こんな夜遅いのに、大丈夫ですか?」 「大丈夫大丈夫。 仕事長引いたらこんな時間なるのはしょっちゅうだから。 まぁ、ほんとは泊まろっかなって一瞬考えたんだけどな、……ほら、たぶん我慢きかねぇし?」  その言葉が何を意味するかは俺にも分かって、急速に頬が熱くなるのを感じた。  セナがここに泊まるとなると、俺のこの狭いシングルベッドでくっついて寝る事になるのは確実で、その先に何があるのかも想像できてしまうだけに慌てて頭を振ってヤバイ思考を打ち消す。 「あ、今なんか想像したろ」 「してないですって!」 「葉璃、お前嘘吐けないな。 かわいー」 「…………っっ」  自分でも顔が真っ赤になってる自覚があって、だからこそセナのこの余裕が憎らしくなる。 「家着いたらLINEすっから。 頑張って起きとけよ」 「……あ、その……寝てたらごめんなさい」  セナの自宅がどこなのか知らないけど、今すでにこの一連の出来事でオーバーヒートを起こしてるから、セナが帰った瞬間堕ちてしまいそうな予感がする。  待ってられるか分からないとセナに正直にそう告げると、またもセナは吹き出して笑っている。  セナは笑い上戸なのかな。 「あはは……! 素直でよろしい! じゃあまたな、葉璃」  見送るために俺も立ち上がると、待っていたかのようにセナに抱き締められた。  何だか……このセナの匂いと広い胸が、落ち着くようになってきてしまった。 「はい、……気を付けて」  セナの車が走り去って見えなくなるまで、俺は無心でずっとその場に佇んでいた。

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