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「罰って……バカな事言ってないで、寝てて下さいっ。今看護師さん呼んできま……」  聖南が完全に目を覚ました事を伝えに行こうと葉璃は立ち上がったが、聖南はすかさずその腕を取った。 「待て。俺何ともないから、まだいい。葉璃、ここにいろ」 「でも……っ」 「いいから」  せっかくの葉璃との時間を、一分一秒でも他人に奪われたくなかった。  心配を通り越して怒ったような表情になっている葉璃は渋々、ベッド脇の椅子にちょこんと腰掛けた。  涙は止まったようだが、複雑な表情のまま視線をウロウロさせている葉璃の手を握る。 「葉璃……ごめんな」  制服姿の葉璃に内心萌えながら時計を見ると、授業中にも関わらず飛んで来てくれた事は明白だった。  あまり積極的でない葉璃を突き動かした、聖南を心配する気持ちが嬉しくもあり、また申し訳なくもあって謝る事しかできない。 「……なんで謝るんですか」 「心配かけたから」 「…………ほんとですよ」  唇を尖らせて視線を向けてきた葉璃の瞳は、本当はずっと泣いていたのではと思うほど真っ赤でさらにやるせなかった。 「なぁ葉璃、何で返事くれなかったんだよ」  意識が朦朧としていた最中、何度も葉璃の姿がよぎったのはあの日連絡が取れずヤキモキしていたからだと勝手に推測している。  抱き締め合い、キスもしたのに、葉璃から明確な言葉を言ってもらえていないからか、連絡が取れないだけで不安でいっぱいになったのだ。  こんなシチュエーションで聞くのは卑怯だと聖南も分かっていたけれど、葉璃の本音を聞けるのは今しかないと思った。 「葉璃ー?」  しっかりと聖南を見ていた視線がまたウロウロし始めたので、話がしやすいように少しだけリクライニングベッドを起こした。  すると意を決したのか、葉璃が聖南の手をぎゅっと握り返してきた。 「……俺まだ信じられないんです。聖南さんとこうしてるのが。それに、……なんで俺なんだろって」  またそれかと葉璃の不安を一蹴してやりたかったが、体を起こすと途端に喉が乾いて、葉璃の後ろの簡易テーブルに常備してあったペットボトルの水を指差す。 「葉璃、そこの水取って」 「えっ? あ、これですか。どうぞ……って、……ちょっと、聞いてます?」 「ごめん。聞いてる」  水を半分ほど一気に飲み干すと体内も目覚めたように冴えてきて、再び葉璃の手を握る。 「あのな、もう疑うなって言っただろ? 葉璃も、俺の気持ち疑ってないって言わなかった?」 「言いましたよ、言いましたけど……」 「それで何でそんな不安そうな顔すんの」 「だって……」 「何だよ?」 「……聖南さんみたいなカッコイイ人に、俺は絶対絶対絶対相応しくないと思うんです……。だけど、聖南さんの気持ちは嬉しくて、次の日には何回も連絡しようとしたんですけど、ニュースではまだ聖南さん目が覚めてないって……。だから俺、今度こそ逃げないって決めて、聖南さんからの連絡を待とうって思ってて……」  どんどんと声が小さくなっていた。  聖南の顔が見られないのか、しまいには葉璃のつむじしか見えなくなった。  彼の不安や戸惑いは並大抵でない。しかしネガティブ発言に拍車が掛かっている葉璃の言葉は、聖南にとっては告白のようなものだと、本人は気付いているのだろうか。 「俺は葉璃がいいの。葉璃じゃないと嫌なんだよ」 「…………」 「てか葉璃はもう、俺の事好きじゃん」  自分に自信がない故に聖南に連絡するのを躊躇して、でも本当は返事を返したかったんだと言われれば、それはもうそういう事だろう。  カッコイイと見た目まで褒めてくれ、あげく真面目そうな葉璃がこの時間に学校を飛び出して制服のままここに駆け付けてくれた事が、何よりの証拠だと思うのだ。  対面し、心配のあまり涙を流してくれた葉璃の気持ちが、聖南には嬉しくてたまらなかった。 「……好き……なんですかね?」

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