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 他人に自分のものを触られた事なんか当然無くて、いきなりはヤダって抵抗してみても、怖いほど見詰めてくる聖南は俺を離してくれなかった。  ほんのちょっと擦られただけなのにすぐイッちゃって、聖南が呆れてないかなって思いはしても、長過ぎたキスのせいで呼吸も思考もなかなかうまくいかない。  実際には俺は、抵抗らしい抵抗なんかしなかった。  背中を撫で続けてくれる聖南の大きな掌がことさら心地よく感じて、凄まじい疲労感でこのまま眠ってしまいそうだ。 「葉璃、大丈夫か?」 「…………大丈夫なはずないでしょ」  目を閉じて聖南の胸に寄りかかっているといくらかマシになってきて、突然の事に恨み節を言いつつ、傷に障るといけないから離れようとすると今度はすんなり解放してくれた。 「ごめんな、いきなり。 俺ちょっとトイレ行ってくる。 それ飲みながら昼飯何がいいか考えてて。 なっ、五分はかかるから」  俺が放ったものを掌でうまく受け止めてくれたから、聖南はそれを洗いに行くみたいで、ゆっくりとした足取りでバスルームに消えた。  しっかり俺のものを綺麗に拭いて直し、ファスナーまで上げてくれていた聖南の後ろ姿を目で追う。 ポツンと一人になると、途端に物凄い羞恥が襲ってきた。 「恥ずかしかったー……!」  いても立ってもいられなくて、いつもの如く足をジタバタと動かし両手でほっぺたを覆いながら悶えても、聖南の掌の感触がまだリアルに残っていて目をギュッと瞑る。  そうすると今度は、背中がブルッと震えるほどの聖南のヤンチャの笑みが蘇ってきて、逃げ場がなかった。  聖南に触れられた所と、散々弄ばれた唇が未だに熱を持ってるみたいに熱い気がして、頭がボーッとする。  どっかへ飛んでいってしまいそうなほど気持ち良かったけど、あんなに早く達するなんて俺自身もビックリだった。  それからほんとに五分ほど戻って来なかった聖南は、そのままキッチンへ入り「決まったか?」と言いながら二杯目のコーヒーを注いでいる。 「……何でもいいです」 「何だよ、怒ってんの?」 「怒って……ないです、恥ずかしいだけで」  さっきと同じ場所に腰を下ろした聖南は、コーヒーを啜りながらフフッと不敵に笑った。 「可愛かったよ、マジで。 傷が治ったら覚えてろ」 「何をですかっ」 「ん、想像にまかせる」  当たり前のように肩を抱かれて、至極上機嫌な聖南の胸に凭れかかりながら、よく分からない発言に首を傾げるしかなかった。  お腹も空いてるはずなんだけど、このまどろみがずっと続けばいいなんて思ってしまって、何が食べたいかなんて決められない。  無音の室内で、天井でくるくる回るシーリングファンを見てると、時が止まったみたいに穏やかな気持ちになった。 「葉璃、腹減ってんだろ? 鳴ってるぞ」  それでもやはり体は正直で、俺の腹から鳴ったグゥーっと低い音が聖南にも届いたらしい。 「ペコペコですよ。 でも聖南さん、外に食べに行くのはダメでしょ? しばらく外出禁止って言われませんでした?」 「そうなんだよ。 だからケータリング頼もうと思って。 和洋中選べるしな」 「え、それ聖南さんだってバレません?」 「そこは社長がうまく根回ししてるから大丈夫。 さっそく頼むか」 「はい!」  ケータリングサービスなんて初めてでワクワクした。  聖南から聞くまでよく知らなかったけど、今頼んだお店は和洋中のオーダーに合わせて料理を運び、その際の配膳や後片付けまでやってくれるそうだ。  本当は十名以上とかのパーティー向きなサービスみたいだけど、社長から根回しがあると言ってた聖南は本当に特別なようだった。  三十分とかからずやって来たスタッフの人達から、ダイニングテーブルに横並びで座る俺達は次々ともてなされ、初めて俺はそこで聖南と料理を共に食べている事に気付いて何だか嬉しくなった。 「さすが、一流の店はケータリングでも同じ味だ。 美味いな」 「はい、美味しいですっ」  ナイフとフォークを使って食べる上品な料理達でも、家ならかしこまらず箸で食べられたし、何より俺がなかなか食べられないような高級フランス料理で。  食べ終わる頃にはほっぺたが落ちたんじゃないかと不安になるほど、とっても美味しかった。  根回しがなくても秘密を厳守してくれそうな恭しいスタッフ三名は、後片付けまできちんとこなし、ほぼ会話らしい会話をしないまま整然と帰って行った。

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