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聖南は食後ソファで薬を飲み、何やら退院の時に貰ったというプリントを見ながら傷跡のケアをしていて、俺もその患部をマジマジと見てしまいギョッとなった。
丁寧に縫われたそこは赤く腫れぼったくて、思わず目を細めてしまう。
「い、痛そう……!!」
「それがなーもうあんまり痛みはねぇんだよ」
「そうなんですか……」
思いっきり痛そうな見た目に対し、それほど痛みがないなんて信じられない。
聖南が目覚めなかったために入院が長引いただけで、縫合処置が終われば帰宅できたほどなのだそうだ。
「……これが、何かの罰……なんですか?」
この傷跡は、紛れもなく加害者と被害者のいる事件上のもので、逮捕されたあの女は一体誰なのか、何でこの傷を聖南は罰だと言ってるのか、俺にも知る権利がある。
聖南が直接教えてくれるって言ってたから、俺はお見舞いに行った日からニュースも見ていないし、もちろんネットで検索…なんて事もしてない。
うやむやな情報を外から知り得るより、聖南の口からがいいと思った。
どういう意味なのか、聖南の家に来れば教えてやると言われてたから、ちょうどいいとばかりに身を乗り出す。
「……だな。 俺さ、ガキの頃からこの世界にいるけど、初めはスクープだっつって騒いでたマスコミすら黙認するくらい無茶苦茶してきたんだよ」
「何をですか?」
「女関係」
「………………」
分かってた答えなのに、いざ聖南の口から聞くと絶句してしまう。
この先も聞きたいけど聞きたくないような複雑な思いが胸に広がって、また聖南が淹れてくれた甘々コーヒーを一口飲んで気を落ち着かせる。
そして聖南もいつものチャラい雰囲気をすっかり消していて、苦々しい口調で続けた。
「考えナシだったって今なら分かる。 俺最低だって」
「……な、なんとなく分かりました。 あの……あの人は誰なんですか? 聖南さんを傷付けた……。 昔の恋人とかですか……?」
「違げぇよ。 全然知らねぇ女。 俺に抱いてもらいに来たんだと」
「……だ、抱いてもらいに……」
すごい世界だと素直に驚いた。
芸能人らしい浮世離れした話だけど、紛れもなくこれは聖南本人の話で、それでも、一途に俺を想ってくれてる聖南しか知らない俺にとっては信じられない話だ。
事件と傷跡がすべてを物語ってはいるけど。
「な? 俺がいかに最低野郎だったか分かるだろ? だから罰なんだよ。 派手な衣装着て歌って踊って、笑顔振りまいて喋ってる俺も間違いなく楽しんでる俺なんだけど、心がないっつーか……気付いたら収録とか撮影終わってる事多くてさ」
「…………心……」
「これはもうCROWNとしてデビューする前からだ。 カメラの前で仕事をして、終わり。 帰れば独りだし、男だからどうしても溜まるし……つい、ってやつ」
「独り……? 聖南さん、両親は?」
「父親はテレビ業界と繋がってるでっかい会社の重役で、ほとんど会わないから顔も思い出せねぇ。 母親は……知らねぇ」
「え……!?」
「葉璃にだから話すんだぞ? 俺のいいとこも悪いとこも全部知っててほしいから。 葉璃の事を真剣に好きでいるためには、話しとかないとな」
車で拉致られた時はここまで深い話はしていなかったから、あの時は聖南の中でストップを掛けてくれていたのかもしれない。
俺が聖南と同じ気持ちになったからこそ話してくれてるんだって、その寂しげな表情がすべてを悟らせた。
「聖南さんはもう大人だし、芸能人だし、カッコイイから、その……女の人がたくさん居たのは何となく分かってました。 傷の事も、何となく理解しました」
「″何となく″多くね?」
俺は必死で答えているのに、聖南はあっという間に笑顔になってしまっている。
そんなに変なこと言ったかな……。
「でも、両親の事は知らなかったです……何と言っていいか……」
「何も言わなくていいって。 黙って聞いてくれて、″何となく″分かってくれたんなら、それで十分」
「何となく」を強調しながら言う横顔はもういつもの聖南に戻っていて、高い鼻筋を見ながら改めて、カッコイイ人だなぁと見惚れた。
「親の事はまぁ追々な。 俺ももう成人越えてるし、今さら仲良くしよーとかさらさら思わねぇから。 葉璃がそんな泣きそうな顔すんな」
「……はい……」
「俺は自分の親の事より、今までの無茶苦茶の方が言いにくかったんだけど……」
「あ、……それは気付いてたっていうか、聖南さんがそういう事しない方が不自然っていうか……」
「はぁ?」
聖南の過去の女関係がどうだったかなんて、俺には今までもこれからも縁のない事だから想像すら出来ないってのが本音だ。
想像も出来ない事を、どうこう言ったり傷付いたりするはずがない。
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