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「聖南さんっ、待って、お風呂! シャワーでもいいから先に浴びさせて!」
手を繋いだまま、聖南の家に到着するなりすぐさまベッドルームへ連行されて押し倒されたので、さすがに今日はこのまま抱かれるのは嫌だとごねた。
学校帰りで(体育もあったし)、スタジオで歌を歌って少なからず緊張して汗をかいたし、大人達が密集したスタジオ内はやけに蒸し暑かったしで、家に帰ったらまずお風呂に入ろうとぼんやり思ってたくらいだ。
でも聖南は不満そうに眉間に皺を寄せている。
「はぁ? いいよ、んなもん」
「嫌です! 浴びさせてくれないなら帰る!」
「……分ーかったよ。 じゃあ俺も一緒入る」
仕方ないな、と言いながらも俺を起こしてくれて、また手を繋いで初めて入るバスルームにやって来た。
ほんとに普段から使ってるのか疑いたくなるほど、脱衣所も洗面台もホテルみたいにピカピカだ。
そんな整頓されたバスルームへ入るや否や、早速俺の制服を脱がそうとしてきた聖南の手を慌てて止める。
「何」
「は、恥ずかしいんで……っ自分で脱ぎます。 ていうか一人ずつ入るのはダメなんですかっ?」
なぜそもそも一緒に入るんだと、恥ずかしくてたまらない俺は懲りずにまたごねると、薄茶の瞳に吸い込まれそうなほど真剣に見詰め返され、グッと押し黙ってしまう。
「葉璃が自分で脱ぐのも、一人ずつシャワー入るのも、どっちも却下。 今からもっと恥ずかしい事すんのに、こっから恥ずかしがってたら保たねぇよ?」
「……うー……却下って……」
「湯船は終わってから入ろうなー?」
「……お、終わっ……はい……」
有無を言わせない物言いに、これはもう何を言っても無駄だと諦めた。
せめてここが暗ければそんなに恥ずかしくないのに、今日に限ってやたらと明るく感じてしまうのは気のせいかな……。
全裸になった俺をジロジロ見ながら、聖南も全て脱ぎ終えると、無言のまま抱き締められた。
素肌同士だと、聖南の甘い体臭と香水の香りを直に嗅いでしまい、それだけで少し感じてしまった俺は相当ヤバイと思う。
「……聖南さん?」
抱き締めてジッとしている聖南の背中に手を回しながら、そっと名前を呼んでみる。
「こんなに早く葉璃を抱き締められると思わなかった……」
「……聖南さん……」
「マジで、ちゃんと葉璃が答えを出すまで何年でも何十年でも待つって決めてたんだけど。 その前にもし、もう俺なんか要らないって言われたら……立ち直れる自信はなかった」
聖南は思い詰めたように、そう告白してきた。
俺と同じ、か弱く脆い部分を垣間見た気がして、聖南がどれだけ不安な日々を過ごしてきたのかと思うと胸が苦しくなる。
そんな事を思いながら毎日生活して、何よりそれを俺が味わわせてしまったなんて、やるせなかった。
「聖南さん……、もう俺、どこへも行かないですよ。 いつか聖南さんが俺を要らないって言う日がきても、俺は追い掛け回します」
「ぷっ。 葉璃が俺のストーカーなんの?」
「そうです」
自信満々に言い切ってやると、苦しく思いを吐露していた聖南の空気が変わってホッとした。
俺はもう聖南から離れないよって伝わったんなら、それでいい。
「それいいじゃん。 でも俺そんな事一生言わないから、ストーカーの経験は出来なさそうだな」
「……ふふっ……」
「おっ、笑った。 かわいー♡」
「っっ!? からかうのやめて下さい!」
「からかってねぇってば。 葉璃の笑顔あんま見た事ないからたまんないの。 ……さて、シャワー浴びよっか」
「……はーい」
裸で何分か抱き合っていたからか、さっきほど羞恥は感じなくなっていて、悠長にも呑気に返事した俺は聖南から差し出された左手を取った。
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