101 / 584
21♡4
不安や疑念ではない、悦楽によるドキドキが俺を支配していた。
自分の気持ちを認めてしまえば、何の事は無かった。
聖南が遊びまくってた過去も、これだけ想いのこもった瞳で見詰められたら気にしようがない。
特殊な状況下にいる聖南は特に、俺が気にするような過去は無い、清廉潔白だと言われた方が「嘘でしょ」ってなる。
重要なのは、何年でも待つと言ってくれた聖南の今の気持ちだ。
春香や恭也とちゃんと向き合って話をしなければ、そんな簡単な事にも気付けなかった。
いつまでも自分を守っていた、大切な人の気持ちさえ掴みそこねて傷付けてしまった俺の頑丈な殻は、半分は壊せたと思う。
あとの半分は、まだお尻にくっついてる。
こればかりは俺の性格上、全部取っぱらう事は出来ないんだ。 これがなかったら俺じゃない、とも言える。
聖南はこんな俺を丸ごと好きだって言ってくれたから、自分を理解するためにはまだこの殻は必要不可欠。
それは聖南への想いどうこうは関係なくて、突如として進む事になった新しい世界への道のために取っておく。
黙ったまま運転する横顔があまりにもかっこよくて、ジッと見詰めてしまってた俺は、聖南に顔面をグイッと押されて我に返った。
「むっっ」
「あんまり見るな。 照れる」
前を向いて運転を続けながらそう呟く聖南の頬が、心なしかピンクに色付いてる気がした。
いつも余裕たっぷりで、普段の動作も優雅にすら見える、そんな聖南のこの狼狽えっぷりはすごく可愛い…って、俺が思うのも生意気なんだけど。
「聖南さんの照れって貴重ですよね、って事でもう少し見てていいですか」
「いやダメ! なんだよ、マジで同じ葉璃なのか? 変化がすご過ぎ」
「そんなに変化しました? ……自分ではよく分かんないんですけど」
「言ったじゃん。 蝶になったって。 一ヶ月前と顔付きから違う」
「顔付き……」
もしかして聖南は、蛹から蝶へ羽化したって意味で俺にそう言ったんだろうか。
だとすると、聖南はマジで俺の本質をまるっと分かってくれてる……。
時間をくれ、だなんてアバウトな台詞は、どのくらいの期間待たなきゃいけないのかハッキリしないのに、それでも聖南は俺を待つって言ってくれてたんだ。
俺は、ネガティブに捉える事はやめよう、言いたい事は頑張って言ってみよう、と考えを変えたのは事実だけど、そんなに自分に変化があったようには思えなくて。
でも聖南がそんなに言うなら、俺はちゃんと変わり始める事が出来てるのかもしれない。
「その瞳と顔がやっと合致してきた感じ。 今からがすげぇ楽しみだけど、やーっぱ心配だなぁ」
「何が心配なんですか?」
「だから、芸能界入れば必然的に葉璃は公の目に晒されるわけだろ? 業界の奴らも、ファンも、葉璃に言い寄って来る奴が絶対出てくる」
「そんな事あるのかなぁ……。 でももし誰かに言い寄って来られても、聖南さんが守ってくれるんでしょ?」
「……っ! そりゃ守るよ。 俺が絶対的な壁になってやる」
「じゃあ大丈夫です。 何かあったら聖南さんのせいに出来ますもんね」
「あはは……っ! だな、そういう事にしとけ」
久々に見る聖南の笑った顔を、俺はしばらく見詰め続けた。
心配や不安は、今はそれほどない。
聖南の存在もだけど、俺自身が揺るがないってもう分かったから、たとえこの先何が起きても平気な気がした。
ともだちにシェアしよう!