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  ″抱っこ″ のまましばらく葉璃を抱き締めていた聖南は、呼吸を整えるとすぐにズルッと自身を引き抜いた。 「んあっ……」 「のぼせてない? 大丈夫?」 「……た、たぶん……」 「ちょっとこのままな」  聖南に身を預ける葉璃の呼吸が、まだ乱れていた。 微かに震えているようにも感じる。  歓喜と興奮で我を忘れてしまった聖南は、葉璃が落ち着くまでジッとしておく事にした。  聖南も性急過ぎた己を戒めながら、抱き締め返してくれる細い腕に浸る。  こんなにも早く葉璃が決断してくれるとは、本当に予想だにしていなかった。  周りが見えなくなる、何も手につかないという嘘のように甘酸っぱい恋をしてしまった聖南は、葉璃が戻ってきてくれる事を信じていつまででも待つつもりでいたのだ。  葉璃の環境が変わり始めた今、この世界と生活に慣れるまでそれこそ年単位で忍耐を試される……しかしここで気持ちを折ってしまえば、永遠に葉璃を捕まえられないと奮起して今日に至る。  考えるよりも先に体が勝手に動いていたと言った葉璃は、正直だ。  だがその正直さが、聖南に喜びを与えてくれた。  映画やドラマで描かれる一目惚れなど幻想だろうと軽んじていた気持ちは、今はもうない。  アキラに促されて仕上げた、あの曲の軸を「片想い」にした聖南には紛れもなく葉璃を想う心が在る。  吐息が心地良い。  性欲を満たすものがセックスだけではないという事を、生まれて初めて知った。 「んあっ……なに……っ?」  聖南は、葉璃の体が冷えないようシャワーをあてて体を擦り、落ち着いてきたのを見計らって孔に指を二本挿れた。  生で挿入したあげくあまりの興奮で中でイってしまい、中に散らしてしまった精液を掻き出すためだ。 「ゆ、ゆび……ぁっ……」  この手の事に経験のない葉璃は、聖南が抑えている欲を嘲笑うかのようにいちいち可愛く啼く。  その度に唇に吸い付きたい衝動に駆られるが、中で放ったものは念入りに掻き出しておかないと葉璃が後で痛い目に遭ってしまうと、指先で念入りに孔を擦った。 「悪い……中出ししちまったから、俺の出してる」 「……あっ、そうなんだ……んっ……あっ……あっ……」  指を巧みに動かしていると、都度前立腺を触ってしまう事になる。  どんどんと葉璃の声に甘みが増し、頬が熱くなって色付いてきた。  それでも聖南はグッと堪え、自身でも驚くほどの精液の量を掻き出し終えるとシャワーで内側も綺麗に洗い流した。  葉璃の気持ちいいポイントの場所はもう覚えたので、それはベッドに行ってたっぷり可愛がってやる事にしよう。  「ベッドでもヤる気ですか!?」と葉璃からは驚きを持って言われてしまいそうだが、聖南はヤる気満々だ。  二回目で駅弁体位などとは濃厚過ぎただろうかと苦笑しながら、くたっと体の力が抜けてしまっている葉璃の体を拭いてやる。 「すみません……面倒掛けて……」 「何言ってんの。 面倒とか思ってねぇから。 葉璃の世話は楽しくてしょうがない」 「えっ、ぅわっ、いいですよ、こんな! 歩けます!」  くまなく丁寧に拭きあげてやり軽々とお姫様抱っこをしてやると、葉璃が口だけで抵抗を示してきたが力の入らない両手がしっかり聖南の首に掴まっているので笑ってしまった。 「そっか。 でも抱っこさせて」  抵抗する気力も出ないほど脱力した葉璃を、このままバスルームで続けて抱くほど聖南も鬼畜ではない。  笑いながら気のない返事をして、おとなしく聖南の腕に収まっている葉璃のおでこにキスを落とすと、ひとまずベッドルームに入った。  まだ体力もヤる気も有り余っていたが、やらなければならない事が一つ残っていて、それを済ませてからでも遅くないと葉璃を優しくベッドに横たえる。  聖南は自分だけ下着とジーンズを履くと、ベッドへ腰掛けておもむろに葉璃を見た。 「スマホ貸して」 「え? あ、はい。 いいですけど制服のポケットにあるんで取ってきます」  コロン、と横になっていた葉璃がゆっくり体を起こそうとしていたのを右手で制す。 「あぁ、いいよ、俺取ってくる。 親に連絡していい?」 「親? 誰のですか?」 「葉璃のだよ。 今日泊まるって事と、明日学校欠席の連絡してもらわなきゃだろ」  そう言うと、葉璃は「あー」と苦笑して薄手のふわふわ毛布を頭まで引き上げて完全に顔を隠してしまった。  何かいけない事を言ったか、と聖南は足を止めて葉璃の様子を窺うと、数秒後にチラッと目元だけ出してあのメロメロな瞳を聖南に向けてくる。 「さっき色々言ってたの、本気だったんですね……」  ここへ来る前に聖南に言われた事を反芻し、その意味に気付いて恥ずかしくなっているらしい。  情事のあとを匂わせる潤んだ目元にクラクラした。 「当たり前だろ。 理由は褒められたもんじゃねぇけど、筋は通さねぇとな」  言いながらバスルームへ戻り、脱ぎ散らかしたままの制服をハンガーに掛けながら葉璃のスマホを探し当て、早速いじり始める。  葉璃の制服が掛かったハンガーを持ったままバスルームを出て、クローゼットがある衣類部屋へ行き、律儀に制服をしまった。  独り暮らしが長い聖南は、マメである。 「んーと……」  すでに帰宅してもいい時間をとうに過ぎているので心配しているかもしれない両親には、葉璃がここにいる事と聖南の素性をきちんと説明しておかなければ、聖南自身も安心出来ない。  葉璃を大切にしたいが、聖南もまだ手探りだ。 よって、浮かれるだけ浮かれて筋を通さないのは違うと、欲望を押し殺した聖南なりの誠意だった。  履歴からすぐに「母さん」を見付け出した聖南は、何の躊躇いもなく発信ボタンを押した。

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