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 言いたい事を言うのは、難しい事だ。  相手に、自分が思ってる事をぜんぶ言ってしまうと、それがもしかしたら相手にとっては嫌な事かもしれなくて、不機嫌にさせたり喧嘩になったり、悪い連鎖を生み出してしまいそうで怖かった。  嫌われたくない思いもあったかもしれないけど、それよりも、衝突があった時に俺は自分が傷付きたくなくて、どうしたら傷付かずに済むかっていう保身の方が強かった。  喧嘩になったら相手に何を言われるのか、もしかして殴られてしまうんじゃないか、男なのにそんな事までウジウジ考えて、巻き込まれたくなくて、どんどん殻に閉じこもっていった。  一人の世界は気楽でいい。  嫌な事も、怖い事も、誰とも関わらなければ何も起きなくて平和だ。  でもその代わり、何もない。  高校で恭也が話し掛けてくれるまで、本当にひとりぼっちな学生生活を送ってた俺は、行事毎にはしゃぐクラスメイト達を遠目で見て「楽しそうだな」とすら思えなかった。  だってそこには、自分が居ないから。  体育祭? 文化祭? それって楽しいもんなの?  修学旅行なんて無くても良くない?  いつだったか春香にそう言ったら、めちゃくちゃドン引きされた。  俺のぶっきらぼうな対応にもめげずに話し掛けてくれた恭也も実は同じようなタイプだったし、何より無口で無害で、独りだった俺にとっては最高に居心地の良い初めての「友達」だ。  会話らしい会話が無くても、なんとなく分かり合える親友と呼ぶに相応しい恭也。  絶対に俺を裏切らないと気付けたのは、恭也と聖南が初めてだった。  感謝の気持ちとか、何気なく思っている事を言葉にするのはすごく勇気がいる。  怖がりで根暗で卑屈でネガティブな俺自身の事は、俺が一番よく分かってると思ってたのに、二人はそれ以上の理解と安心をくれた。  そんな恭也と、アイドルとしてデビューするなんて未だに信じられないよ。  聖南との事も、今回のデビューの事も、学校の人気のない場所で何日も何日もたくさん話し合ったっけ。  俺達は似た者同士だから、何があっても二人で乗り越えよう。  何も知らない他人と組むわけじゃない。 運命の悪戯で二人が選ばれた。  踏み出す一歩が、他でもない分かり合える親友とだからこそ、うまくいくよね。  照れくさい本音の会話を、何度も何度も繰り返して今日まできた。  聖南の胸に飛び込む勇気を持てたのも、聖南なら俺を分かってくれる、理解してくれると信じる心を教えてくれたからだ。  離れてみて、気付いた。  この人の手を離したら、俺は一生後悔するって。  あの時どうして俺は、聖南の好意を受け止めなかったんだろうって、シクシクうじうじ泣いてた。  無心で行動を起こしたのは、聖南の背中に抱きついたあの時が生まれて初めてかもしれない。 「……る、はる、おはよ」  遠くで誰かに呼ばれてる気がして、フッと今までの映像が消えて真っ暗になった。 「ん……おはょ……です、」  寝惚けて薄っすら瞳を開くと、優しい声の主は超絶イケメンな恋人、飛ぶ鳥を落とす勢いのアイドル兼モデルの聖南だった。  俺は……夢を見てたらしい。 「体大丈夫か? ホットミルク作ったけど飲む?」 「…………飲む……です……」  起き抜けで見る聖南は今日も文句のつけようがないほどカッコよくて、しかも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれてるなんて、聖南のファンの子が知ったら暴動が起きそうだ。  渡された大きめのカップの中身は、程よく温かいホットミルクで、俺用に少し甘めにしてあった。 「美味しい……」  そう呟くと、側に腰掛けた聖南が俺の頭を撫でてくれた。 「良かった。 メシ食う? もうちょい寝る?」 「……今何時ですか……?」 「九時前……だな。 昨日無理させちまったから、今日はダラダラしていいんだからな。 そのために学校休ませたんだし」 「じゃあもう少し寝ていいですか?」 「いいよ。 俺あっちの部屋で仕事してくるから、何かあったらおいで。 昼は一緒に食おう」  俺の体調を見るために一回起こしてくれたようで、飲み干したカップを持ってもう一度俺の頭を撫でると、聖南はベッドルームを出て行った。  お言葉に甘えてベッドの上をコロコロっとした俺は、昨日のパーカーの色違いを着せられてる事に気付いた。  意識が飛んでからの記憶が朧げにしかないから、あれからどれだけ抱かれ続けたのかは分からない。  だけど、あの初めての日より疲労感と腰と背中の鈍痛が明らかで、喉の違和感も比べものにならないし、あとお尻の穴の感覚も変だ。  お風呂にも入れてもらって、自分が聖南の匂いに包まれている事に気付くと……何だか目が冴えて眠れなくなった。

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