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疲れた体が重たいからすぐには動き出せなかったけど、少し休んでからゆっくり起き出し、聖南がいると思しき部屋をソーッと覗いてみた。
そこには、ピアノやギターに囲まれてパソコンの前で眼鏡を掛けて仕事をしている聖南が居た。
恋人の特権だからと、後ろからアイドル様のプライベートを遠慮なく凝視してみる。
チラッと見える横顔がめちゃめちゃカッコ良くて、瞬きも勿体無いくらいだ。
───何だろう。
昨日から俺、眼鏡フェチだったっけ?ってくらい、聖南が眼鏡掛けてる姿にキュンキュンするんだけど。
それに、聖南は今の髪型と髪色の方が似合ってる。
前はチャラ過ぎだった。
エッチの時に見えたピアスは健在だったけど、それでも赤みがかった茶髪の聖南だとチャラさは半減してる。
「いつまで覗いてんの。 こっちおいで」
振り返りもしないで後ろ姿のまま聖南がそう声を掛けてくるもんだから、驚いて体がピクッと揺れてしまった。
「バレてました?」
下半身がおぼつかなくてジワジワと聖南に促された椅子に座ると、可笑しそうに含み笑いで俺を見てくる。
俺はつい、正面で拝むと神々しさが増すその綺麗な顔に釘付けになった。
「当たり前だろ。 ……って、何?」
「いや……」
座ったと同時にあんまりマジマジと見てしまってたから、聖南はどうしたんだと言わんばかりに不思議そうに首を傾げた。
───俺、聖南限定の眼鏡フェチ決定だ。
昨日スタジオ入った時に見た聖南の姿は、一瞬誰だか分かんなかったんだよ。
それが眼鏡を掛けた聖南だと気付いた瞬間、心臓がヤバイくらい早く動き始めたのが分かった。
久しぶりに会う聖南に躊躇いの気持ちと期待感も十分あったけど、そこに居たのは俺が知ってる聖南と印象がまるで変わってて、初めて出会ったみたいにときめいてしまったからだ。
だからって眼鏡掛けてる人みんなにキュンキュンするわけじゃない。
そういえば佐々木さんだって眼鏡掛けてるけど何とも思わないもんなぁ。
「口開きっぱなし。 どうしたんだよ」
視線を逸らす事も出来ずに見惚れていると、くっと顎を持たれた。
危ない危ない。
見惚れ過ぎて口までだらしなく開いてたらしい。
「せ、聖南さん、眼鏡もう一つあったんですね」
何だかカッコよ過ぎて緊張してしまい、久しぶりに聖南相手にどもってしまったけど、ドキドキが止まらないんだからしょうがない。
昨日掛けていた眼鏡は落ちて壊れてしまい、それをポイッと棄ててしまってたのをこの目で見たから、昨日のそれと同じものを聖南がしているのがやたらと嬉しい。
急に変な事を聞かれた聖南が、俺の妙な態度がよく分からないといった風に頷く。
「あぁ、俺近視こじらせて視力悪いんだよ。 眼鏡無いからってボヤけたりするとこまではいかねぇけど、作業する時は不便だから何個か常備して……って、だから何、なんでそんな見んの」
「ヤバイです! 眼鏡聖南さん!」
「はぁ??」
痛む腰なんかそっちのけでガタンッと派手に立ち上がり、俺は聖南にグイっと近寄って熱弁した。
「カッコいい……いや、美しすぎます! …その眼鏡の姿、テレビでぜっったいに見せないで下さいね? ファンの人も、そうじゃない人も、スタッフの人達も、みんなイチコロになっちゃいますよ!! そのお顔はもはや凶器です!」
「………………」
あまりの俺の剣幕に、聖南は驚いて一歩引いてしまったけど気にしない。
絶対にこの眼鏡聖南は誰にも見せたくないもん。
きっと自分が相当な男前だって事は分かってるだろうけど、眼鏡姿は盲点だと思うから、ちゃんと教えといてあげないとね。
「…………ぷっ……」
フンッと鼻息荒く腰掛けた俺に、聖南はとうとう我慢出来なかったのか吹き出して、盛大に笑い転げた。
笑い事じゃないのに!
「……あーウケる。 面白え。 つまりあれだ、葉璃は、眼鏡掛けた俺がイケてるって言いたいわけだな?」
「そうです! ヤバイです! メロメロです!」
「あはは……っ! 喜びてぇけど面白いの方が強えよ! 葉璃の方がヤバイって。 かわいーなマジで」
「んっ……」
聖南は笑いながら一瞬で興奮冷めやらぬ俺の両頬を掴み、チュッとキスをしてきた。
「これそんな使えんのか」
中指でクイッと眼鏡を上げる仕草をした聖南を見て、俺はまた懲りずに見惚れた。
チャラそうな聖南がそんな事を真顔でやると、俺だけじゃなくみーんなコロッといくはずだ。
「使わないで下さい。 心臓に悪いから……」
「ふーん。 じゃあ後で眼鏡掛けたままエッチしよっか」
「ダメです! 俺をどうする気ですか!」
「あははは……! どうもしねぇって。 メロメロになってるの見たいだけ」
「もうメロメロですってば……」
「あー可愛いなぁもう。 ちょっと仕事モードから逸れちまったから、昼飯にすっか。 午後の事はそれから考えよ」
立ち上がった聖南は相変わらず笑ってたけど、少しだけ照れたように眼鏡を外して俺の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
大きな掌の温かさが、何だか無性に気恥ずかしくて、でもすごく嬉しくてニヤニヤしてしまった。
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