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 映画を見て感想を言い合ったりしながら、恭也が俺の家まで送ってくれた。  別方向なんだからわざわざ送ってくれなくていいって断ったんだけど、「あんな事があったのに一人で帰すわけないでしょ」ってちょっと怒られたから何も言えない。 「あ、あれ、恭也くん。 こんばんは」  ちょうど玄関から出てきた春香が恭也の姿に一瞬驚いてたけど、すぐに笑顔を見せた。  その後ろから重そうな鞄を持った佐々木さんも出て来て、一直線に俺の元へやって来る。 「葉璃、なんか久しぶりだな」 「そうですね。 こんばんは」 「元気か? レッスン、ツラくない?」  佐々木さんは眼鏡を上げながら、ちょっとこっちに来てという風に俺を指で呼んだ。  人見知りな恭也が心配で振り返るも、活発な春香がリードして会話をしながら家の中に入って行くのが見えたから、安心して佐々木さんに付いていく。 「何とか頑張ってます。 佐々木さん、今日は家に来てたんですね」  車に鞄を積み込む佐々木さんは、この寒いのに薄手のビジネスコートを着ていた。  シンプルなそのコートも佐々木さんらしくて、よく似合ってる。 「そうなんだ。 春香の契約更新でご両親と話があったからね。 高校卒業したらいよいよツアーも計画しないといけないし、契約年数も伸びたから俺が出向かなきゃって事でな」 「相変わらず忙しそうですね」 「まぁな。 そういう葉璃は……何か変わったな。 セナさんとうまくいってるんだ?」 「…………はい。 一応……」 「だろうね。 もう抱かれた匂いするもんな。 ちょっと悔しい」  言いながら腕を組んだ佐々木さんが、苦笑して俺を見てくる。  この人はどうしてこうも勘が鋭いんだろ。  以前告白された時、まだヤッてないだろって言われたそれも当たってて、めちゃくちゃ不安を煽られたっけ。 「それだけじゃない。 葉璃はまだまだ開いてない華がある。 デビューして数年経ったら、きっと今じゃ考えられないくらい、もっと化けてる。 ……楽しみだ」 「……でも不安だらけですよ。 俺がデビューするなんて夢にも思わなかったし。 謎のスカウトマンって人の目に止まったのが俺なんて、まだ信じられないです」  佐々木さんとはあの謎の事務所訪問以来まったく会っていなかった。  告白されるまでは、俺にとっては貴重な元々が気軽に話せる間柄だからポロポロと心境を吐露する。  大塚芸能事務所のスカウトマンが何故かmemoryの事務所に居て、たまたまその時俺が歌ってるとこを目撃したりだとか、ダンススクールまで追い掛けてきたりだとか、一体どういう事なんだろって疑問はまだ解消されてない。  俺が今置かれてる立場については理解してるけど、経緯については聞かされないままだ。  ちょっとの沈黙の後、その件について絶対に何かを知っているだろうと確信していた佐々木さんはら俺の耳元で驚くべき事を言い放った。 「その謎のスカウトマンって俺の親父」 「え、……えぇ!? そ、そそそうだったんですか!?」  あまりに突拍子もない事を聞かされた俺は盛大に驚いた。 直後、佐々木さんに「シーッ」とジェスチャーをされて口を噤む。  でも、驚くなって方が無理だ。 「親父から、男性ユニットのデビュー話があるんだけど大塚には候補がいないって聞いてね。 宮下恭也の音源とダンスV見せてもらったんだ。 それで、俺が葉璃の情報流した」 「なっ!? 事務所違うのにそんな事……!」 「何のために親父と違う会社入ったと思う? それぞれ金の卵を発掘して、売れると確信したら世に出して、実際世の中に受け入れられた時……恍惚とするんだ。 葉璃の場合は、まだどこの事務所にも入ってなかったから完全セーフ」  嬉しそうに饒舌な佐々木さんを前に、俺は言葉が出なかった。  そんな経緯だったんだ、と納得したと共に、ちょっと考え方の違う佐々木さんのミステリアス度が大幅に増してしまう。 「親父の目利きを受け継いでるって自負はあったけど、葉璃の事は一目見て本当に金の卵だと思った。 嫌がっていたのに何度も事務所に誘って、葉璃はまったくその気が無かったかもしれないけど、絶対に光る存在になるって確信があったよ。 春香よりもね。 ……これ内緒な」  これは……きっと、褒めてくれてるんだよね……?  春香よりもって言われても、全然、わーい!と喜ぶには至らないけど、そこまで俺の事を買ってくれてた事は素直に嬉しい。 「だから、葉璃、頑張れよ。 まぁ俺はどうしても葉璃の事タイプだから贔屓目で見てしまうけど」 「いやいや、もう諦めて下さいよ……。 俺、頑張りますから、普通に応援してください」  せっかくいい感じで話はまとまりそうだったのに、最後に余計な事を言うから脱力してしまった。  苦笑する俺を見て、佐々木さんはクスッと上品に笑っている。 「そんなの無理だって。 あわよくばっていうの期待してるんだから。 あ、そうそう、年末のパーティーには出るのか?」 「パーティー?」 「大塚事務所は毎年年末に有名所の所属タレント集めて立食パーティーやるんだよ。 もう葉璃も大塚の所属だし、しかもデビュー控えてるから出席するのかと思って」 「……何も聞いてないですね。 俺未成年だし、デビュー控えてる身だからこそまだお呼びはかからないんじゃ……?」  へぇ……そんなのあるなんて知らなかった。  もし出席を促されるなら、あらかじめ最低でも一ヶ月前くらいには知らされててもいいはずだから、恐らく俺には関係ない話なんじゃないかな。 「そうなんだ。 でも葉璃達、大塚のここ数年で一番の目玉だから多分呼ばれると思うけどな。 スーツ用意しておいてあげようか」 「えっ? い、いや大丈夫です」 「俺からのプレゼントってわけじゃないよ? わざわざパーティーのためにスーツ買うのも勿体無いだろうから、局の衣装借りてきてあげる」 「あー……そういう事ですね。 じゃあその時はお願いします」 「了解。 それじゃ、またな。 恭也と、セナさんによろしく伝えて」  スカウトマンとパーティーの話に面食らった俺は立ち竦んだまま、颯爽と帰って行った佐々木さんの黒いセダンを見送った。  あの告白はやっぱりどこか軽快なものだったのかな。 佐々木さんはほんとに謎が多過ぎて、俺の手に負えない。  しかもパーティー……?  いかにも芸能人って感じの響きだ。  俺の単調だった毎日がどんどんと濃く色付き始めている事に、嫌でも気付かされる。  俺は本当に、もう後戻りができない場所まで来てしまったんだと「パーティー」という単語だけで何となくそれを思い知った。

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