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 それから数日後。  今日は恭也が家の用事でレッスンはお休みだったから、俺は一人で事務所を出た。  珍しく仕事が早く終わったという聖南から、時間が空いたら電話して、というメッセージを見付けて心が浮ついて、早速掛けてみる。  メディアに出まくって大忙しな聖南の姿を映像でしか見られなかったし、電話で話すのも一ヶ月以上ぶりで何だか緊張するな……。 『葉璃ーレッスン終わった?』 「っ出るの早いですね」  ……わぁ……生の聖南だ……!!  この気だるいような、ちょっとヤンチャなお兄さんって感じの喋り方に、慣れてるはずなのに異様にドキドキしてきた。 『めっちゃ待ってたからな。 どうよ、元気してる?』 「元気ですよ。 聖南さんこそ、忙しそうだけど大丈夫ですか?」 『へーきへーき。 謹慎中の方がどうにかなりそうだった』 「あはは……っ。 そうかもしれないですね」 『お、笑ってる。 あーあ。 葉璃ー、会いてぇなー』  聖南が今どんな姿なのか分からないけど、何となく、コーナーソファのオットマンがあるとこに足を置いて、腕には大事そうにクッションを抱えて寛いでる姿が目に浮かんだ。  会いたいという率直な言葉に、胸が締め付けられるように切ない。 「俺も会いたいです。 でもしばらく聖南さんも俺も忙しいでしょ? 今は我慢です」 『えー。 今週末来いよ。 俺土曜の夕方から日曜午前は空くから』 「んー……でも今週末は……厳しいかも」 『なんで。 何かあんの?』 「レッスンの後、恭也と映画に……」  来いよって言ったらすぐさま頷いてくれると思ってたらしくて、まさかの俺の返事にあからさまにムッとした様子の聖南は、俺が言い終わらないうちから、 『はぁ? ダメ。 俺優先して』 と駄々っ子のような事を言い始めた。 「でも約束しちゃったから」 『恭也とデートすんなら俺としようよ。 葉璃と映画なんて恭也ずるい』 「ずるいって……。 俺だって聖南さんと行きたいですけど、聖南さん来たらきっと映画どころじゃないくらい人が集まっちゃいます」 『いいじゃん。 俺、葉璃とまともにデートした事ねぇよ。 って事で俺も行く』 「え!? 映画に、ですか? 聖南さんも?」 『そ。 今週末の午後だろ? 死んでもスケジュール空けるから、恭也にも言っといて』  よっしゃ!葉璃とデートだ!って電話の向こうではしゃいでしまってる聖南にはもう断りようが無くて、突然付いてくると言い出したから恭也に申し訳無いと思いながらも、ちょっとだけウキウキしてしまう。  先に約束してたのは恭也なんだから、恭也を断る事はしないって断固としてそれは譲らなかったけど、聖南はそれでもいいってはしゃいでたから、問題無さそうだ。  妙な組み合わせの三人で映画を観るなんて、どうなるんだろう。  みんなそれぞれタイプが違うから、何だか面白そうだ。  聖南とはその後何気ない会話をしてから、週末を楽しみに電話を切った。

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