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 途中に邪魔が入ってしまったものの、聖南はその後三回……かれこれ数時間は葉璃を付き合わせてしまい、グッタリと横になった白い体を撫で回して余韻を楽しんでいた。  しっとりと汗ばんだ肌に触れるだけで欲は簡単に湧き起こるが、さすがにこれ以上したいと駄々をこねると葉璃に怒られる。  今日は最後まで意識を保っていた葉璃はベッドの端で「ふぅ、ふぅ」と可愛く肩で息をしていた。  その肩口に強く吸い付き、顎を取ってこちらを向かせる。 「痛っ……」 「葉璃、ずっと何か言いたそうだったじゃん」  葉璃はひたすら可愛く喘ぎ、時折葉璃の方からキスをせがんできたりと嬉しい事もあったのだが、電話の辺りから何やら意味深に見詰められていたようで聖南は気になっていた。  コロコロと聖南の方に転がってピトッとくっついてきた葉璃は、これまた聖南がキュンキュンするような一言を呟く。 「眼鏡……外してたから……」 「……なんだそれ……」  キスするためには邪魔でしょうがなかった眼鏡は、そういえばあの電話のあと何気なく外した。  キュン…と胸を高鳴らせたものの、そんなにも残念そうに言われてはごめんと言うしかない。 「分かった分かった。 次は掛けとく」  「はい…」と頷き、スリスリっと聖南の胸に鼻先を押し付けている葉璃は、どういうつもりでこんなに可愛い事をしているのか。  明日に響くからと思い、聖南はこれでもセーブしているのだから煽るような真似はやめてほしい。  たまらずにぎゅっと抱き締めると、聖南は「あ、」と電話の内容を思い出して葉璃の髪を撫でた。 「事務所のパーティーが二十九日にあるんだけど、葉璃、出席できる?」  事務所で社長に出くわし、葉璃に伝言を頼まれたというアキラが慌てた様子で掛けてきたが、まったく急ぎの用などではなかった。  夜中に何度も電話してくるなど、ケイタと共謀した確信犯だとしか思えない。  苦笑した聖南に対し、腕の中の葉璃は顔を上げて特に驚く様子も見せずにジッと見詰めてくる。 「行けますけど……やっぱり行かなきゃダメですよね?」 「やっぱり?」  パーティーの件は今初めて葉璃に伝えたはずだ。 にも関わらず、すでにその存在を知っていたかのような反応に訝しんだ。  なぜなら年末恒例のパーティーは、素人はおろか他事務所の人間を完全にシャットアウトし、かつ業界人でも一部の者しかそれについて知り得ないのである。 「佐々木さんに教えてもらったんです。 でも俺、そんなに大勢人間がいるとこなんて……どうしたらいいか……」 「チッ、あの眼鏡マネか。 いいじゃん、俺も行くし。 その日仕事入ってるから、時間合わせて一緒に行こう?」 「うーーん……」  ここ数ヶ月で葉璃は色々と克服出来ている事が増えてはいるが、人ゴミと、初対面の人と話す事はまだ難しいらしく、気乗りではないようだ。  パーティーというもの自体に馴染みもないだろう。 「恭也とのデビューも披露されるんだろうし、幹部とか部のトップとかに自己紹介しとけって事なんじゃねーかな? デビューしたら色んな人間と関わる事になっから、まずは事務所の人間と接して免疫付けとかねーと」 「……そうですよね……。 歌とかダンスを大勢の人に見られるのは、影武者も経験してるし、いざとなったら何とか大丈夫だとは思うんですけど、知らない人と一対一になると俺、何話していいか……」  不安を口にする葉璃は、聖南を縋るように見てため息を吐いた。  頑張りたいけどできる事なら行きたくない……と、その揺らぐ瞳からすべて伝わってきて、聖南は葉璃の気持ちが少しでも和らぐように髪を優しく撫でてやった。 「だから俺が一緒に行くんだって。 隣に張り付いてちゃんとリードしてやっから、大丈夫。 パーティーの場は、葉璃はとにかく人に慣れる事に専念しとけ?」  たくさんの大人がそこらじゅうにいるようなパーティーという現場すら、葉璃は初めてに違いない。  不安に思い、逃げ出したくなる気持ちも分からなくはないので、その日は葉璃のエスコート役に徹しようと決めた。 「ありがとうございます……。 聖南さんが居てくれるなら、頑張ります」 「そう言ってもらえると嬉しいな」  葉璃が前向きになれるのならいくらでも協力する。  そう決意していた聖南に、甘えるようにまたピタッと寄り添ってきた葉璃を抱き締めて、すべすべの背中を撫でた。 「よし、じゃあ決まりだな。 着て行くスーツはどうする? 俺見立てでいいなら用意しとくけど」 「あ、それも佐々木さんが用意してくれるって」 「あぁっ? 何で眼鏡マネに任せんの。 俺が用意したスーツ着て行け、いいな?」 「えっ、でも、パーティーのためにスーツ買うなんて勿体無いから、局の衣装借りてくれるって……」 「他の奴が袖通したスーツなんか着せられるわけねーだろ。 俺が買うからな」 「…………勿体無いですって」 「勿体無くねぇ! スーツなんか何着あっても困るもんじゃねぇんだから。 んーっと、……葉璃と付き合って三ヶ月ちょい記念って事にして貰っといて」 「どういう記念ですか」  クスクス笑う葉璃を微笑ましく見詰めていた聖南だったが、内心は不満たらたらであった。  いつどこで佐々木の名前が出てくるか分からない。  聖南という恋人が居るのを分かっていて、葉璃にスーツを見繕おうとするなんて油断も隙もない。  局で借りてくるなど大嘘で、佐々木は絶対に、自分が見立てたスーツを葉璃に着せるつもりだ。  熱く真っ直ぐな視線により、佐々木が本気で葉璃の事を好きだと分かっているからこそ、たまたま局ですれ違った時も何も言わないでやっているのだ。 「…… 一回牽制かけとくか」  次に会った時にでも葉璃のスーツは必要ないと言っておかなければ、すでに作り始めている可能性があった。  葉璃と佐々木に接点を持たせてなるものかと、聖南のヤキモチが発動する。 「あの……聖南さん、お風呂入りません? ベタベタする……」  可愛くて危なっかしい聖南の恋人は、眉を顰めて上体を起こした。  深夜まで愛し合っていた形跡が互いの体に纏わりついたままで、確かに気持ちがいいものではなかった。 「ん、そうだな。 お湯張ってくるわ」 「俺行きますよ」 「いいから。 葉璃はコロコロしてろ」 「……コロコロ?」  笑顔を見せる葉璃を置いて、聖南は浴室まで行きお湯張りボタンを押した。  お湯が溜まるまでの少しの時間でも離れたくなくてすぐにベッドルームへ戻ると、ベタベタを嫌がっていたはずの葉璃が実際にシーツの上をコロコロと転がっていた。  しかも楽しそうに口元が笑っている。 「あー……もう。 マジで何? どれだけ俺を夢中にさせたら気が済むんだよ」  なんて愛らしい光景なんだと聖南は目を瞠り、転がる葉璃を捕まえて力いっぱい抱き締めた。  この想いを伝えるには言葉が足りない。  もどかしいほどに、葉璃への「好き」は毎日毎日、日々募っている。

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