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 ドキドキのレコーディングは、午後一時から休憩を挟みながら二十時過ぎまで掛かり、ようやく終了した。  俺だけが緊張してるのかと思ったら、恭也はもちろん、その場に居た全員が同じ気持ちだったようで、終わった瞬間にスタジオ内の空気が明るくなった気がしてホッとする。 「お疲れ様、葉璃」 「恭也! お疲れ様〜」  昨日と同じで別々のブースだった俺達は、休憩中にチラッとしか顔を合わせられなくて、初めての慣れない作業と長時間の拘束、そして何よりレコーディングが終わった開放感で俺達はひっしと抱き合った。  ヘッドホンから聞こえてくる恭也の声に俺が合わせる形になってしまったけど、俺は今出せるすべてを出し切ったという、とても清々しい気持ちだ。 「仲良しだね〜お二人さん。 お疲れ様」 「良かったよ。 よく頑張ったね」 「あとは俺達に任せて、今度は年明けからの販促活動とダンスに力入れてね」  ブース内に入ってきてまで労ってくれたのは、これから編曲作業をしてくれる皆さんで。  すべてが初めての俺達に、ヘッドホンの付け方から歌う顎の角度、マイクとの距離など細かな所まで優しく指示して教えてくれた。 「ありがとうございます……! 俺みたいな素人同然の奴に、こんなによくしてもらって……俺なんかのために、皆さんの時間を……っ」 「俺も、たくさん、感謝しています。 どうもありがとうございます」  二人揃って深々と頭を下げると、「こちらこそ」と笑い掛けてくれて、俺もつられて笑顔が零れた。 「うん、いい表情だ。 恭也くんはそのままクールに。 葉璃くんは、その調子で笑顔をどんどん見せていきな」  そう言って編曲チームはスタジオ内に戻っていった。  もう二人は帰宅していいみたいだよ、と林さんに声を掛けられて、恭也と俺はその場に居た全員にもう一度頭を下げてスタジオを後にした。  聖南も右手を上げて「お疲れ!」と見送ってくれて、今日はさすがにこれからの仕事があるのか追っては来なかった。  林さんが送ってくれてる車中でも、まだドキドキが治まらない俺と恭也は、何だか心が落ち着かないままだ。 「二人の曲、絶対に売れますよ」  ルームミラー越しに笑顔を向けてくれる林さんは、グッと親指を立てて「絶対に」と力強く言ってくれた。  そうかな……なんて照れながらも、俺には今日の歌が世に出るなんてまだ想像も出来ない。  恭也もそれは同じみたいで、色んな思いが交差している。  俺達はようやく、デビューに向けての道筋に立ったんだ、いよいよだな、と決意も新たにすると示し合わせたように同時に視線を交わした。  恭也を先に見送り、それから俺も自宅に送り届けてもらって林さんと別れを告げたところで、聖南からの電話に気付いて慌てて階段を駆け上がった。  自室に入るとめちゃくちゃホッとして、力が抜けてラグの上にぺたんと座る。 『はーる。 お疲れさん』  電話に出ると、さっきまでの「セナ」じゃなく、俺を甘やかすような「聖南」の声に胸が高鳴った。 「聖南さん……お疲れ様でした。 ありがとうございました」 『葉璃も恭也も、よく頑張ったな。 喉と足は大丈夫か?』 「はい。 喉も足も、何ともないです」 『そっか。 ちゃんと薬飲んでたもんな』 「見てたんですか?」 『当たり前だろ。 昨日あんだけ言ったのに今日も薬飲んでなかったらお仕置きもんだ。 あ、でも、恭也と抱き合ってたのはお仕置き決定な』 「えぇ! なんですか、お仕置きって……!」 『それはまた来週な。 パーティー前日の二十八日は泊まりに来いよ。 当日の仕事前倒しでやるから遅くなるかもしれねぇけど……まぁまた連絡するわ』  お仕置きって何なんだって震えながら電話を切った俺は、恭也と抱き合ったりしたっけ?と、首を傾げた。  こんな事を言えば「無意識なら尚悪い!」と怒りそうな聖南の顔が浮かんだものの、俺にはその自覚すら無かった。

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