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 レコーディングも終わり、安直にも少々気が抜けるかと思ってたけど、その後も毎日朝から夕方までレッスンがあって、気を抜く暇も無かった。  今年最後のレッスンを終えた俺と恭也は、揃って事務所を出て駅まで向かっている。 「明日のパーティーって、あのホテルで、あるんだよね?」  駅から見えるこの辺りで一番大きなホテルを指差した恭也は、その建物の面構えに頬を引きつらせた。 「そうみたいだね。 恭也は林さんが送ってくれるって?」 「うん。 そう言ってたよ。 葉璃は、セナさんと来るんでしょ?」 「あー……多分。 なんで分かるの?」 「セナさんが、葉璃と来ないはずないよなーって、思っただけ」  俺と聖南の関係を知っても態度を変えないばかりか、恭也は聖南の気持ちまで分かるようになってる。  そっか、と言いながら俺も、キラキラと輝く、何ちゃらホテルを遠くに見た。  明日のパーティーに気乗りじゃないのは恭也も一緒で、無表情だったけどいつもより口元がヒクついてた恭也とは駅で別れて、俺は聖南のマンションに向かった。  顔見知りになってきたコンシェルジュに名前を告げると、「伺っております」とすぐに玄関を開けてくれた。 「ふぅ……。 何かもう自分の部屋くらい落ち着くな」  リビングのコーナーソファの角に座ると、それがごく自然と俺の定位置と化している事に気付いて笑いが漏れた。  聖南からはまだ連絡ないし、遅くなりそうって言ってたのを思い出して暇潰しに何気なくテレビを付けた。 「あ、CROWNだ!」  ちょうどバラエティ番組にCROWNがゲストで出てて、もちろん聖南もそこに居る。  昼のロケで司会者と街ブラして、聖南復帰後のCROWNの素性を掘り下げようというほのぼのとした番組だ。 「……聖南さん、まんまだな」  アキラさんは普段より口数少なく、ケイタさんに至ってはほとんど話さずニコニコしているだけなのに対し、聖南がほとんど場を仕切っていた。  司会者の男性と親しげに肩を組んで歩いてみたり、例のスキャンダルを問い質されると、これも時折笑いを混じえながら嘘無く受け答えしている。  傷の具合はどうかと聞かれると、アキラさんとケイタさんを無理に巻き込んで道端で突然三人でガチのダンスを披露して周囲のギャラリーから黄色い声を浴び、俺は一視聴者として笑いながらその番組をとうとう最後まで見てしまった。  芸能人ってもっと作り込まれたものかと思ってたけど、テレビの中の聖南は俺の前と少しも変わりなくて驚いた。  これまで照れくさくて、聖南が出てるバラエティー番組をまともに見た事がなかったせいで、すごく損した気分だ。  こんなに笑えて幸せになれるんなら、今まで聖南が出演した全番組を網羅したくなった。 俺と出会う前から、出会って以降ぜんぶ。 「もう終わっちゃったよ」  エンドロールが流れる中、アキラさんとケイタさんは普通に「さようなら〜」と言って手を振ってるのに、聖南は一人画面左側にドアップで映り込み、ドヤ顔で手を振っていて、奥の二人がよく見えなかった。  カットがかかった後の場面まで放送してたんだけど、周囲は笑いに包まれて、スタッフや共演者、ロケに集まってきていた大勢の一般のギャラリーにも最後まで手を振る聖南の立ち振る舞いすべてが、見習うべき芸能人の見本だ。  あっという間に一時間近くが経っている事に気付いて、俺はソファにゴロンと横になる。 「聖南さん……カッコいいの、顔だけじゃないな。 すごいや」  芸歴が長く、あんなに人気者なのに、聖南は全然飾り気がない。  俺といる時は少しカッコつけてるのかもしれないけど、それでも、些細な気使いや心配りは今の番組の中でも随所で見られた。  男として、本当にカッコいい。  初めに抱いた聖南への尊敬の念は、あの頃とは比べ物にならないくらい、もっともっと膨れ上がっていた。

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