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そんな事より、いっぺんに話し掛けてこられるとどうしたらいいか分からなくて、三人をキョロキョロっと見回してとりあえずペコっと頭を下げておいた。
荻蔵さんとの会話で俺の精神的余力があと少しで尽きるところまで迫っていたのに、この三人の目に見えない威圧感と全方位からの視線に、頭から煙が出そうだ。
……もうキャパオーバー寸前なんですけど。
「あーあぁ、困ってる。 セナが怖い顔するから」
「してねぇ」
「ほんとだよ。 ハル君、いつもセナにいじめられてるんじゃない? 嫌だったら嫌!ってぶん殴っていいんだからね?」
「……あ、いや……あの…」
三人はいつものように会話をしてるだけなんだろうけど、背の高い男達に囲まれて、すでに周りが見えなくなってるほどの圧迫感に俺は押しつぶされそうだった。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、聖南は恭也の肩に手を乗せて「よっ、恭也」と声を掛けている。
ペコっと恭也も頭を下げると、満足したように聖南は口元だけで笑い、そのまま荻蔵さんを凝視した。
「んで、なんでまた荻蔵がいるの」
「CROWNさん、お疲れっす。 たまたまお会いしたんで、ちょっと話してただけっすよ」
棘のある言い方の聖南もいけないけど、飄々と言い返す荻蔵さんも怖いもの知らず過ぎて、いても立ってもいられない俺は俯いて気配を消し、その場をやり過ごそうとした。
けどそんな必要も無く、数名の社員が俺達ももう中に入れと促しに来て、とうとう俺は会場内へと足を踏み入れる事になった。
だだっ広いきらびやかなパーティー会場には本当にたくさんの有名人が居て、それだけならまだしも、事務所の社員や幹部、他大手会社の重役、その秘書達、もう誰が誰だか分からないほど人がごった返している。
社長の挨拶が終わると瞬く間に会場内がざわめき始めて、知らない人から受け取らされた細長いグラス(中身は何だろう…)を持ったまま立ち尽くす。
「葉璃、とりあえず俺について歩け。 いいな?」
早速、聖南以外の面子は顔見知りと挨拶を交わしに行ってしまい、恭也は社長に捕まって何やら話し込んでるしで、俺には聖南だけが頼りだった。
会う人会う人から聖南は声を掛けられていて、それに気さくに応じながら俺の紹介もしてくれた。
俺は自己紹介して一礼するというのを、もう何回やったか分からない。
立ちっぱなし、動きっぱなしで時間よりかなり早めに足が痛くなり始めてたけど、社会人としてきちんと振る舞っている聖南にはとても言い出せなかった。
「聖南さん、トイレ行ってきていいですか?」
「あぁ、俺も…」
「よぅ、セナ! 久しぶりじゃん! ニュース見たぜ〜」
会場の外で薬を飲もうと思って聖南に声を掛ける。
付いていくと聖南が言い掛けた時、知り合いの俳優?に話し掛けられてたから、俺はその人に一礼して「すぐ戻ります」と聖南に告げて会場の外へ出た。
ロビーで水を一杯貰うと、急いで飲もうとポケットを探る。
「えっ、ヤバ! 無い!」
ポケットに忍ばせていたはずの痛み止めが忽然と無くなっていて、俺は途方に暮れた。
間違いなくポケットに入れたはずなのに、なんで無いんだろ…。
これはもう、会場には戻れない。
不思議なもので、薬がないと分かるとじわじわと痛みとだるさが物凄いスピードで襲ってきてる気がした。
少しでも会場から見えない場所へと思い死角になる席へ移動すると、俺は無意識に呻きながらテーブルに突っ伏して痛みを堪えた。
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