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30❥  すぐ戻ります、と言われたものの、一人にして大丈夫かと聖南は不安だったが、似たような芸歴で歳上の、非常にお喋りな俳優に捕まり話を切ることが出来ないでいた。 「セナ無茶苦茶やり過ぎだったんだよ、生きてるだけマシと思え?」 「ふっ……。言う事はみんな同じだな」 「マジでさ! 俺にも半分くらいはまわしてほしかったぜ」 「何言ってんだよ」 「もう遊ぶのやめたんだろ?」 「あぁ、あんな事があったから声掛けられんのも少なくはなった」 「……て事はまだお盛んなわけだ?」  ニヤニヤと下品な話に興奮している俳優を横目に、聖南は会場入り口を頻繁に見やっているが、葉璃がなかなか戻ってこない。  ── トイレの場所分かんねぇのかな……やっぱ心配だ。 「悪い、ちょっとトイレ行ってくる」 「おぉ、またな!」  気もそぞろで会場を出ようとすると、遠目に荻蔵もこの場を出て行ったのが見えた。  入り口から少し遠い場所に居た聖南は、さすがに人がごった返す会場内だと人を掻き分けねばならず、しかも度々話し掛けられるためそれらにそつなく応対し、数分を要してやっと会場の外へ出られた。  天井の高い豪奢なホテルとはいえ、あれだけの人が中に詰め込まれていると息苦しい。  聖南は早足で真っ直ぐトイレへと向かい、個室もすべて調べてみたがどこにも葉璃の姿はない。 「…………?」  もしかして気付かぬうちに会場に戻っていて、葉璃があの人ごみの中聖南を探しているのかもしれないと思い急いで踵を返した。  可哀想に、一人ぼっちでキョロキョロと聖南を探す葉璃を想像し、俺に付いて歩けと偉そうな事を言っておきながら目を離した自分を叱咤した。  大股で会場へ戻っていたところ、ふと目に入ったロビーの片隅に荻蔵が誰かに寄り添うように腰掛けているのが見えて、何気なく近寄ってみる。 「……ほんとに男か? こんな可愛いのに?」  荻蔵はそんな甘ったるい事を言いながら柔らかそうな髪を撫でていたのだが、それがなんとテーブルに突っ伏している葉璃の髪だった。 「……ッッ葉璃!!」  嫌な光景を目の当たりにしたと同時に、何故こんな所にいるのかと聖南は足早に葉璃のもとへ向かう。 「うぉ、ビックリしたー。ハル寝てるからそんな大きな声出さないで下さいよ。周り誰も居ないからめっちゃ響いてますよ」 「うるせぇ! なんでこんなとこで寝てるんだよっ?」  葉璃と密着するように腰掛けていた荻蔵が少しだけ横にズレると、無理やりその間に入って葉璃の頭を撫でた。  無意識に、荻蔵が触れた場所を聖南が再び触れる事でリセットする意味合いがあった。 「分かんないっす。俺がトイレから戻ったらもう寝てましたよ」 「っつーか寝てるって……ついさっきまで眠そうになんかしてなかった」  どういう事なんだとテーブルの上を見ると、水が入ったグラスが一つあり、どうやらそれには口を付けていないようだった。 「まさか……」  ハッとして、聖南は腕時計を見た。  時刻は十九時前。  痛み止めを飲むには早い時間だが、状況に応じて効果が早めに切れる事もあるだろう。  痛みを感じ始めたから、きっと葉璃はトイレに行くと言って会場を抜け出し薬を飲もうとしたのだ。 「薬……薬飲んだ後のシートのゴミ、見なかったか?」 「薬? いや、見てないっすよ。あったのはこの水だけ」 「…………っ」

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