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聖南の勘違いキスで変な空気になり、怒ってた俺もすっかりその気分じゃなくなった。
再び走り始めた聖南が、一度腕時計を確認して俺を横目に見た。
「じゃがいも作戦はともかく、葉璃は頑張ったよ。 意識飛ばす寸前の顔してたけど、よく耐えたな。 偉かった」
「………はい…ありがとうございます」
真剣なトーンで改まってそんな事を言うから、いよいよ怒れなくなった。
怖い顔して俺の挨拶を見守ってた聖南も、俺の緊張が伝わってしまってたのかもしれない。
終わってホッとしたところに俺が変な事言ったから、聖南は気が抜けて爆笑してしまったんだな…きっと。
「あの場で大塚からユニットがデビューする事を発表しちまったから、もしかしたら来年の夏を待たずにマスコミに追われる事になるかもしれねーけど、それは我慢な」
さらに、今日を境に何かが変わるかもしれない事も教えられて俺は、なるほど、と思った。
こういう時に大先輩がいると、すごく頼りになる。
「あぁ…そっか、そうですね。 大塚事務所の年末恒例のパーティーって言ってたから、その情報は知られてるだろうしスパイみたいな人が居てもおかしくないんだ…」
「スパイか、まぁそんなとこだな。 それも、いい宣伝になる、くらいに思ってたらいいから」
「分かりました。 ところで聖南さん…お酒飲んだでしょ」
俺の周りが変化するなんて、もう今に始まった事ではないし、聖南っていう心強い味方もいるからきっと何とかなる。
それよりも、飲まないって言ってたお酒の味がした聖南を視線も交えて嗜めた。
「あ? 酒は飲んでねぇよ。 運転あるっつったら、ノンアルビール渡されて何杯か付き合いで飲んだけど」
「え〜ほんとですか? え〜」
「葉璃乗っけるのに酒飲むわけねぇじゃん。 飲んだら運転はしねぇ」
ノンアルコールでもあんなにちゃんとお酒の風味が残るんだ。
そもそもアルコールを飲んだ事がない俺はその辺がよく分からない。
そういえば俺がノンアルコールカクテルを飲んだ日、聖南はそれをズバリ言い当てたっけ。
甘いカクテルの味っぽいって。
「てか、俺そんな強くないから飲むとすぐバレんだ。 あんま酒自体好きじゃねーのよ」
「そうなんですか! 意外です」
勝手に聖南は酒豪のイメージだった。
過去のたくさんの浮名なんて特に、そういうのってお酒が強いからこそ飲んだ勢いで関係を持ってしまうのかと思ってた。
お酒が強くなくて、あんまり好きでもないなら、自然と大人の飲む物は限られてくる。
「だからコーヒーがお好きなんですね」
「あぁ、そう言われてみればそうだな。 どうしても酒飲むってなったらカルーアミルク好き」
カルーアミルク?
分からない俺は首を傾げながらスマホを取り出し、そのカルーアミルクっていうのを調べてみた。
聖南が好きなものは知っておきたいって思ったからだったんだけど。
「せ、聖南さん、……可愛いの好きなんですね。 カルーアミルクは女性に大人気ってありますよ。 へぇ〜コーヒーリキュールかぁ」
「あっ、調べんなコラ! まだ知らねぇだろと思ってぶっちゃけたのに!」
「いいじゃないですかっ。 聖南さんが好きなものは何だって知りたいです。 いずれバレる事ですし」
「さっきまでうさぎみたいに震えてたのにこのやろー。 ……上がり症治ったらそのキャラウケそうだ」
最後の聖南の言葉は俺には届かなかった。
お酒が強くない、意外にも女性が好むカルーアミルクが好き、新たな聖南を発見してご機嫌な俺がいた。
一つ一つ、こうして聖南を知れる事が、今の俺にとっては一番の喜びかもしれない。
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