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ダンススクールに到着すると、佐々木さんだけじゃなく、なんとmemoryのメンバーが勢揃いしていた。
自宅療養を余儀なくされてる春香はそこには居なかったけど、まさかこの遅い時間にみんなが居てくれてるとは思わなくて、すごく嬉しくなった。
「今回は不可抗力以外の何ものでもないからね。葉璃がまたハルカをやってくれるって知って、みんな集まってくれたよ。もちろん保護者の同意も得てある」
佐々木さんがそう言うと、みんなが口々に「葉璃ありがとう!」ってまだやり切ってもないうちから俺に感謝していた。
その嬉々とした様子で、年末年始の番組に出られるようになったから成功させたいって電話で佐々木さんが言ってた強い思いが、みんなも一緒なんだと痛感した。
それが俺じゃなくて春香だったら尚良かったんだろうけど。
「ところで、メールでも気になってたけど、何でセナさんもいるのかな? メンバーの子達が気もそぞろになってしまうんだが……」
俺と一緒にやって来た聖南を見て、みんなギョッとなって頬を赤らめてたのを思い出して苦笑した。
こうなる事は分かってたつもりだけど、聖南はまったく意に介さない。
「あぁ俺の事は気にすんな。今日は葉璃の事務所の先輩として来てっから」
「……ごめんなさい、佐々木さん。一応佐々木さんに許可もらってから聖南さんには言うつもりだったんですけど……」
memoryがレッスン場へ入って行ったのを確認して、俺は視線から火花散る二人の間に割って入った。
「いいんだよ。むしろ、セナさんに相談する前に決断してくれた事に意味があるからね」
「んなの、俺に相談どうこうの前にやらざるを得ない言い方したんだろ。状況が状況だし。葉璃の性格分かってて早朝に電話したんじゃないの」
「来年はmemoryとして飛躍の年にしたいから、絶対に失敗は許されないし、代役を立てるとなったら葉璃以上に踊れる子はいない。頼ってしまうのも当然でしょう?」
「ねっ?」と佐々木さんに微笑まれた俺は、どうしていいか分からなくて視線を泳がせた。
怪しい雲行きに、何だか頭上二人の薄ら笑いが怖い。
「てめぇに下心あっから気が進まねえんだよ。ま、明日明後日の歌番は俺も出演被ってるから葉璃の事は任せとけ」
「とんでもない。memoryとして参加する以上、他アーティストとは必要以上の接触はさせられません。俺がしっかり面倒見ますから、ご安心を」
「安心できねーから言ってんだろ。葉璃はCROWNの楽屋に居させとく」
「そんな事が出来るはずないでしょう。葉璃はハルカとして出演するんです。年末の二番組は出演アーティストも多いですから不審がられます」
「そんじゃ、衣装とメイクしてない時はこっちに寄越しとけ。行きも帰りも俺が送るし」
「困った人ですね……」
「も、もう俺、練習入りますね!!」
言い合いが白熱してきて、雲行きが怪しいどころじゃなくなった。
居心地の悪い俺はそそくさとレッスン場の中へ逃げ込む。
聖南も、あんなに佐々木さんに突っかかるなら来なかったら良かったのに……。佐々木さんも佐々木さんで、聖南の怒りを買うような言い方して。
もうー、なんなんだよ〜。
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約四ヶ月ぶりに踊るmemoryのダンスは、最初こそ所々忘れてて止めちゃったけど、一時間ぶっ通しでやってるとほぼほぼ形になってきた。
曲がかかれば不思議と体が覚えてるもので、動画を見まくってイメトレは出来てたし、みんなをそれほど煩わせる事にならなくて良かった。
一番心強かったのは、脇で見ていた聖南がさながらダンス講師みたいで、時折つまづく俺に「そこはな、こうして、こう、こう、な」と自ら踊って指導してくれた。
たった何回かしか見てないmemoryの振り付けを、何でそんなに熟知していて、しかも教えられるまでになってるのか分からないけど、スムーズに練習出来てめちゃくちゃ助かった。
人気絶頂のアイドルとして歌って踊り、幼い頃から舞台に立ち続けてきた聖南が、memoryの曲の振り付けを踊っているだなんてその場の全員が信じられない思いで見ていたに違いない。
メンバーみんなも、親身になって春香の影武者に協力している聖南の虜で、恐る恐る頬を真っ赤にしながら話し掛けたりしているのを見ると、やっぱ女の子だなぁと思った。
「最後一回通して解散にしようか。0時回る前に全員送り届けたい」
「はーい」
「はーい」
佐々木さんの一声に皆一斉に返事をすると、鏡の前でそれぞれ立ち位置につく。
俺は向かって左後方だ。前回と一緒。
春香本人の場合はセンター→右中央→左後方に動くんだけど、俺の影武者の場合は左後方→ワンフレーズだけセンター→右後方へと少しだけフォーメーションを変えてもらってる。
これは俺が出来るだけ目立たないようにするためで、今年出した曲に限っては、大変かもしれないけどメンバーみんなに協力してもらうしかない。
「はい、オッケー! お疲れ様。明日は午後二時に集合、四時出発ね。局到着後六時からリハーサル、生本番八時前後。その後速やかに帰宅だ。ありがたい事に明後日と年明けもあるが、とりあえずは明日の本番をしっかりやり切ろうな」
「はい!」
「はい!」
当然ながら、佐々木さんとみんなはとっても熱が入っていた。
練習が終わって聖南はトイレへ行き、佐々木さんも車を回しにスタジオを出て行って、memoryのみんなは着替えのためにロッカールームへと向かった無音のレッスン場内で、俺もジャージからさっき着てたスーツに着替えた。
パーティーからこのまま来ちゃったからしょうがない。
急な事で用意をして来なかった聖南はスーツのまま振付けを教えてくれてたけど、アイドルとしてキラキラな衣装姿を見てるからかあんまり違和感を感じなかった。
「えーっと。佐々木さんなんて言ってたっけ……」
明日のスケジュールをスマホに打ち込もうにも、二時集合しか思い出せない。
俺はみんなの真剣な表情を見てて、佐々木さんの話をまともに聞いてなかった。
ちょうどそこに、佐々木さんが車の鍵をポケットにしまいながら戻ってきて辺りを見回している。
「……葉璃、どうした? セナさんは?」
「トイレ行ってます。あ、もしかしてトイレの場所分かんないかもですね。ちょっと行ってき……」
「待って」
このダンススタジオのトイレは奥まった場所にあるから、見付けられないかもしれないと思って走り出そうとすると、ふいに佐々木さんから腕を掴まれた。
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