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曲がかかると体が自然と動くんですよね、と葉璃が言っていたが、その通りだと思う。
短期間でみっちり叩き込む振り付けはもはや曲と一体化していて、7年前のデビュー曲も少しの練習で完全に蘇ってきていた。
今日は長過ぎるマントのせいでアクロバットは控えめにしつつ、適度な抜き感で舞台を縦横無尽に動き回った。
『はぁ…やっぱダンスいいな〜好きだわ。 いつか葉璃と踊れたらいーな…』
歌いながらそんな事を思っていると、スタジオの扉が少しだけ開いて、なんの気無しにそちらを見た。
スタッフが出入りする事などザラなので気を抜いていた。
隙間から縫って入ってきたのは、待ち焦がれていたハルカを脱いだ葉璃と、佐々木だった。
『……何でアイツと…』
いつもの葉璃の姿に浮ついたのは一瞬だけで、昨日我が恋人をモヤモヤっとさせた張本人である佐々木まで一緒にやって来た事に「はぁ?」となったが、完全なるプロ意識で無表情は崩さなかった。
続いて今年の曲に入り踊っていると、先程CROWN三人でmemoryを見ていたモニターで葉璃が現在のパフォーマンスを見詰めていた。
『お、めっちゃ真剣に見てくれてる…』
カメラがきて視線を寄越すと、葉璃はモニターを見ながらピクッと体を揺らす。
テレビを視ている者達が全員、自分が見詰められていると勘違いしてしまうほどの濡れた瞳だが、聖南はこの武器もきちんと把握済みだ。
ついつい横目で葉璃を覗き見ると、それは熱心にパフォーマンスを見てくれているせいか、いつもより熱が入ってしまう。
そしてなんと葉璃は、その場で小さくCROWNの振り付けを真似していたのだ。
口元が動いているので曲も覚えているらしい。
『………いーこと思い付いちゃった♡』
いくら隣に佐々木が居ようとも、葉璃は聖南しか見えていない。
聖南はその様子を見て心底安堵し、その後はパフォーマンスに集中した。
葉璃と一緒に踊りたいなと思った事を現実に出来そうな計画を思い立ち、カメラが抜きに来た瞬間ほくそ笑んだ。
大歓声の中CROWNの出番は終了し、CMに入ったところで三人はぐるりと客席を見回し手を振った。
次の女性デュオが舞台に上がって来たので、すかさず葉璃の元へ行こうとしたのだが、もうそこに二人は居らずモニターがポツンと置かれただけだった。
「………居ねぇ」
葉璃のいないこの場所にもう用はないとばかりに、聖南はスタッフ達と挨拶を交してスタジオを飛び出した。
「お疲れ、やっぱいいな。 ライブ楽しみだ」
「マジでな! 期間長いからしっかり体力付けとこー」
アキラとケイタも並んで楽しげに話をしていて、CROWNとしての本業を二ヶ月以上も二人に制限させてしまっていた事を申し訳なく思った。
「あ、佐々木マネージャーとハルじゃない?」
目線の先で二人が角を曲がって見えなくなり、ケイタが言いつつ指差した先へ、何となく不穏な気配を感じた聖南は走る。
「先に楽屋戻ってて!」
二人にそう告げて角を曲がってみても、視界の先には行き交うスタッフの姿しかなかった。
『どっか入ったのか…?』
memoryの楽屋とは反対方向なため、この並びのどこかに二人は入ったとしか考えられない。
周囲の雑音の中、なかなか室内の音や気配など察知するのは厳しかったが、名前の貼られていない無人の某楽屋…そう、先程我慢できなくて聖南が葉璃を連れ込んだ楽屋から、聞き慣れた声が聞こえた気がした。
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