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32❥ 6P

32❥ 6P 葉璃を閉じ込めて自分だけのものにしてしまいたい。 何度もそう思ったが、今この瞬間、聖南の気持ちは変わった。 『葉璃は閉じ込めておけねぇ。 ……広い世界で羽ばたかせてやんねぇと』 その儚い姿を見せびらかして、世間をあっと言わせて、そのついでに、出来るものなら葉璃は聖南のものだと言って回りたい。 半ば周りにそそのかされて流された形でのデビューかもしれないが、葉璃には才能がある。 華がある。 それをみすみす聖南のものだけにしてしまうなど、勿体無いと思った。 長く芸能界に居る者として、葉璃の恋人として、ついにもう一歩先へ進んだ気がした。 ハルカとして頑張らなきゃという強い意志と決意が垣間見えたあれなら、心配いらない。 緊張するから、と言って気付けばずっと人という文字を飲み込む癖など、好きなだけやらせてやったらいいのだ。 必要以上に聖南が手を出す事もしなくていい。 葉璃は確かに、着実に前へ進んでいる。 置いて行かれそうだと不安を感じていた聖南も、葉璃を待たずに確実に進み続けなければならない。 葉璃が聖南を追い掛けたいと思ってもらえるように、惚れ直したと言ってもらえるように、カッコイイ男の背中を見せてやらないと気が済まない。 CROWNと、その後歌唱する二組のアーティストが前室に居た。 一組はあまり知らない二人組女性デュオ、もう一組は大人気のソロ歌手、中山春馬だ。 この中山は年下で、事務所は違えど何度も共演しその抜群に良い人柄もよく知っているので、会えば聖南もすぐに声を掛ける。 「よ、春馬」 「セナさん、アキラさん、ケイタさん、お疲れ様です」 声を掛けられたセナにだけでなく二人にもきちんと挨拶をする辺り、中山の礼儀正しさも再確認して微笑んだ。 聖南が謹慎していた事もあって会うのはしばらくぶりだったが、事件を心配してメッセージをくれた中山とは何度かやり取りしていたので、そんなに久しぶりに感じない。 「春馬も二曲やるんだって? 俺も見たかったのに順番微妙だからモニター見てるしかねぇや」 「それを言うなら俺もですよ。 セナさん髪型変わってますます男の色気出てますね」 「だろ? よく言われる」 「ぷっ。 セナさん相変わらずだ。 元気そうで良かったです」 「超元気よ! あ、そうそう。 二月のラジオ、ゲストで春馬の名前上がってっからよろしくな」 「分かりました、こちらこそよろしくお願いします」 ちょうど中だるみとなりがちな時間帯に、CROWNと中山春馬を連投するとは、番組制作陣も考えたものだ。 そして、隅で居辛そうにしている彼女らに視線をやると、新人かもしくはデビューして数年くらいなのだろう。 出演がCROWNと中山春馬の間に挟まれているのは、タイアップか何かが決まり、事務所側が売り出したいのだなとすぐに分かった。 CROWNの迫力に小さくなっている彼女らの元へ寄ると、途端に立ち上がって頭を下げてきた。 「お疲れ様です!!」 「お疲れっす。 んな畏まらなくていーから。 俺らもうここ出るから、そんな隅に居ないでこっち来てな。 ちゃんと喉潤わせとかねーと」 「は、はい…!! ありがとうございます!」 二人は見た目の威圧感とはかけ離れた聖南の気遣いに感動して、また立ち上がって頭を下げた。 「だからそんな畏まんなって。 じゃーな、本番頑張って」 そう言うと春馬にも手を振り、三人は前室を出た。 「まーたタラシ発揮して」 クスクス笑っているアキラに言われて気付いた。 『マジだ。もう無闇やたらに気遣いしねぇって決めてたのにな』 見た目とは正反対のその優しさで女がコロッといくのを忘れていて、聖南は苦笑した。 挨拶程度で良かったものを、いらぬ事まで言ってしまっただろうかと振り返って思うが、自然と出てしまったのだからどうしようもない。 番組中盤のニュースに切り替わったところでCROWNの出番だ。 約8分ほど時間があるため、スタッフと話をしたり時間いっぱいまで客席へファンサービスをした。 歌番組は事件とスキャンダル後としては初となる。 バラエティ番組やラジオ、モデル活動はひっきりなしにこなしてきたが、歌って踊る事は傷口に障らない時期をみる他なかった。 アキラとケイタのドラマ撮影が11月中旬まで入っていて、さらに二人はそれぞれ違う舞台の出演も控えている身であるため、なかなかスケジュールが合わない。 新曲だと発表した夏のシングルを披露するのが久々過ぎて、ほんの少しだけ気持ちが揺れたが緊張というほどでもない。 三人は定位置に立った。 再び現れたCROWNのパフォーマンスを目前に、客席は悲鳴に近い声援を上げている。 中央に聖南、向かって左にケイタ、右にアキラだ。 ハルカを脱いだらスタジオに見に来い、と言っておいた葉璃はまだ来ていなかったが、途中からでも来てくれることを信じて聖南はカメラを見据えた。

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