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小走りの葉璃を追うようにCROWNの三人もその後ろを付いていた。
そのまま葉璃は前室へと入って行き、三人は一直線にスタジオへと向かう。
ナレーションのみで司会者の居ない年末独特の特別番組なので、パフォーマンスを終えるとすぐさまステージを降り次のアーティストと交代する。
それが四時間強も続く、歌のお祭り的な番組だ。
スタジオ正面にズラリと客席が作られており、ぎっしり百名ほどのオーディエンスがいる中で、突然CROWNがスタジオ内へと入った事で一気にざわめき始めてしまった。
「お前らも付いてくっからこんな事なってんじゃん」
六台のカメラの手前側にスタッフが数十名居て、聖南達は身を潜めるように誰も居ないスタジオ後方のモニター前に陣取った。
忙しなく働くスタッフからもなぜ今CROWNが来たのかという視線を寄越されたが、ヒソヒソ話をしている三人はそれには気が付かない。
「いや、セナ一人だったら色々勘繰られてまた変な事書かれるぞ?」
「そうそう。俺とアキラが居た方が目くらましになるよ」
「……それ都合よく言ってねぇ?」
memoryの一つ前の出番である他事務所の五人組男性アイドルが歌唱を始めて、これまでにない声援にとても嬉しそうだ。
だがそれは、モニターで真面目に生放送のチェックをしている様にも見えるCROWNの姿が客席からバッチリ拝めるため、オーディエンスはそのアイドルではなく聖南達を見てワーキャー言っている。
「あんな誰が見てるか分かんねぇとこで盛りやがって。ちょっとは我慢しろよ」
「あの姿見て我慢なんか出来るわけねぇじゃん。 緊張で震えてさぁ、たまんなかったな……♡」
「だからって色が取れるほどベロチューするやつがあるか。メイク室入って急にリップ貸してくれって、めちゃくちゃ変な奴だと思われたぞ、俺」
「あはは……! メイクさん達、アキラが使うと思ったんじゃない? セナの、口紅持って来て、でよく分かったね」
三人が番組とはまったく関係ない話で盛り上がっていると、すっかり勘違いした男性アイドル五人はオーディエンスへファンサービスをしながら立ち去って行った。
CM入りまーす!の声が掛かると、すかさずmemoryの七人がスタジオ内へと入って来る。
「memoryです、よろしくお願いしますっ」
リーダーの女性がそう言うと、スタッフと客席に向かってそれぞれに全員で一礼した。
「わ〜……マジで分かんねぇな」
「ホントだねー。普段を知ってるから変な感じだ」
メンバーと並ぶと完全に溶け込んでしまっている葉璃を見て、アキラとケイタはやはり以前にも見た事があったなと感心していた。
それほど葉璃の影武者に違和感がないという事だ。
パフォーマンスが始まり、三人は固唾を呑んで見守る。曲がかかるまでずっとメンバーの背中に隠れて俯いていた葉璃が、イントロが流れ始めるや否やそれはもう圧巻の一言だった。
七人の息の合ったフォーメーションダンスと、高度な振り付け、それぞれの可愛さ、何を取ってもこれからさらに売れるのではと思わせた。
夏の生放送出演を機に真似する若者が増えたおかげで急速に世に広まったmemoryだが、そう簡単にこのダンスを真似る事など出来るはずもないだろう。
聖南が昨日見た限りでは、メンバーは日々相当な練習量をこなしているに違いなく、ピカイチのセンスを持つ葉璃でさえも度々間違う箇所があった。
── そう、そう、……そう! やった! 出来たじゃん!
問題のパートでも、葉璃は難なく踊り切った。春香に口酸っぱく言われたという、「しなやかさ」もまったく問題無い。
聖南はついつい綻びそうになる口元を覆い、葉璃を凝視していた。
大サビ前の間奏部分で葉璃は数秒センター位置にやって来る。
各々ダンスしながら葉璃が中央にやって来ると、カメラも自ずと葉璃一人を抜く事になり、聖南も呼吸と瞬きを忘れてモニターを見詰めた。
── うっ……! わ、笑った……!
きっといつもの無表情ですぐにカメラから視線をそらすだろうと思っていたのだが、何と葉璃は、抜いたカメラのレンズに向かって薄っすらと微笑んだのだ。
「……わぁ〜」
「……おぉ……」
「……かわいー……♡」
緊張しぃのあがり症だ、などと二度と言わせられないと思った。
堂々とカメラを見据えて踊るその姿は、まさに美しく飛び回る色鮮やかな蝶々だった。
ボーッと葉璃に見惚れているとあっという間にmemoryの出番が終わり、次のアーティストが舞台に上がってすぐに知らない曲が流れ始める。
聖南はふと、葉璃の姿を探した。
舞台から降りた葉璃は見事なほど無表情に戻っていて、例の如く黒髪ロングの女性の後ろにピタリと張り付き、スタッフへ軽く挨拶をしてスタジオを出て行った。
「……良かったじゃん。memoryはダンススクール出身らしいからみんなレベル高いな」
「すごかったね。しかもハルカちゃん……笑ってたよ」
「あれにはビックリした……って、セナ? ぶっ飛んでるとこ悪いけど俺らも前室行くぞ」
「あ、あぁ……」
アキラにそう声を掛けられても尚、聖南はまだどこかふわふわした爽快な気分から抜け切れなかった。
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