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聖南は車中に残る俺のためにエンジンをかけたまま事務所内に入って行った。
生放送が終わってその足で事務所に来れば良かったんじゃ…と思ったけど、聖南の様子がおかしかった事を思うと、ほんとに忘れてたっぽいから何も言えなかった。
「あれ、恭也だ」
暖かい車の中でぬくぬくしていると、恭也から着信がきた。
「もしもし? どうした?」
『………葉璃、また俺に内緒にしてたね』
大晦日だから、よいお年を〜って感じのいつもの恭也を想像してたら、声に若干の怒りを感じた。
何か恭也の気に障ることをしたのかも…一昨日のパーティーで、とか。
滅多に怒らない…というより感情の波がほとんどない恭也の怒りを感じるなんて相当で、頭を目一杯働かせた。
「何を………って、あ!! もしかして……見たの?」
『ヒドイよ。 影武者するなら、教えておいてほしかった』
「ごめん! 急に決まったから、俺も切羽詰まってて……ごめんね」
『……いい。 許す。 葉璃の事、大好きだから、許す』
良かった、いつもの恭也だ。
初めてハルカとしてテレビに出た時、俺が恭也に相談しなかった事を根に持たれて後々すごくいじけてたから、今回は事前に話してあげなきゃいけなかった。
ちょっとここ何日か色んな事が起き過ぎて、正直、一つの事を順番に整理していくのでいっぱいいっぱいだった。
「ありがと、俺も好きだよ。 それにしてもまた気付くなんてスゴイ…」
目を閉じて笑ってやりながら恭也を安心させてやろうとしたら、ちょうど悪いタイミングで聖南が戻ってきた。
「あ? 誰、相手」
と仏頂面で問われた。
聞かれちゃマズイとこに戻ってきたけど、恭也と俺の間にやましい事は何一つないからそんな慌てない。
「恭也です。 俺の影武者、恭也にまた見破られちゃいました」
聖南は電話の相手が恭也だと分かると途端に表情が穏やかになった。
分かりやすいなぁ、もう。
「マジで? て事は前回も見破ったのか、恭也」
すごく恭也を気に入ってる聖南が、何だか話したそうだったからスピーカーに切り替えて三人で会話を始めた。
『あ、セナさんですか? お疲れ様です。 前回も、今回も、すぐに葉璃だって分かりましたよ』
「お疲れ。 それすげぇな」
「恭也、俺の口パクも見破ってたんですよ。 聖南さんだけにしかバレてないと思ってたから、ビックリした」
「あ〜あれ見破ったの?」
『はい。 出た瞬間に葉璃だって分かった時点で、動きのズレに、気付きましたから』
眼鏡を掛けて車を発進させた聖南が、驚いたように俺を見た。
「すっげ。 間近で見てた俺でも中盤からしか分かんなかったのに。 あ、そうそう、恭也。 来年のCROWNのツアーにバックダンサーとして同行してもらうから、そのつもりでよろしく」
『CROWNのツアーに、ですか? 分かりました』
「恭也受け止めるの早くない!? 俺まだ躊躇ってるよ?」
急な話題転換にオロオロしてるのは俺一人だけで、電話の向こうの恭也はやたらと落ち着いてる。
まるで、初めて聞いた時の俺の反応の方が間違ってたみたいに。
『そうなの? でも躊躇っても、しょうがないよ。 俺がちゃんと、引っ張ってあげるから、大丈夫。 すごくいい経験に、なると思う』
「でも……一昨日のパーティーよりもはるかに大勢の人の前で踊るなんて…俺には……」
『俺もついてるし、セナさんもついてる。 アキラさんとケイタさんも居るなら、百人力じゃない。 何も、怖くないよ』
そう恭也が励ましてくれて、まだ先の事だからとあんまり考えないようにしてた俺の背中を何気なく押してくれた。
聖南と恭也と三人で「よいお年を〜」って言い合って電話を切ると、すでに年越し30分前だった。
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