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「お腹空いたー…」
出番前にCROWNの楽屋にあったたくさんのお弁当の中から一つ選んで食べたのが夕方だったから、変な時間に空腹が襲ってきてしまって頭がボーッとする。
この時間だっていうのに、新しい年を前に街がキラキラして賑やかなせいで、目も冴えていけない。
「そうだよな、待たせてごめんな。 ホテルのレストラン予約してあっから、今から向かうから。 部屋も取ってある」
「え、ほんとですか!? あ、でも、薬忘れた…」
「俺持ってきたから大丈夫」
「すごい、聖南さん」
「何年葉璃と一緒にいると思ってんの」
「………………まだ出会って四ヶ月ですけど」
「そっか、まだそんなだっけ」
薬を持ってきてる用意周到さと、何故かもう何年も付き合ってるかのような言い草に面食らいながらも、聖南がいつもの調子に戻ってる事がその笑顔でも分かってホッとした。
聖南さんと過ごす年越しなんて、すごくワクワクする。
新しい年の一秒目を大好きな人と過ごせるなんて、俺はなんて幸運なんだろう。
連れて来られたホテルは、一昨日パーティーが開かれたホテルよりもさらに豪華な佇まいに、俺は一瞬で空腹が吹っ飛んだ。
中に入ると、普段着な俺達は浮きまくっててそれにもヒヤヒヤしてたのに、聖南の顔を見るや否や小走りでやって来たホテルスタッフにレストランへと誘導された。
最上階のレストランは年越しにムードを添えたいカップルや年配の夫婦で満席だったけど、俺達は周りとは隔離された個室のような場所へ通されて完全に怖気付いた。
「せ、聖南さん、俺、超場違いっ。 帰りたい!」
対面してる聖南に身を乗り出して小声で助けを求めるも、真顔で「心配すんな」としか言ってくれない。
レストランの足元まで開けた窓からは素晴らしい夜景が見えてるのに、こんなところに連れて来られるなんて知らなかった俺は、めちゃくちゃ軽装なもんだからビクビクしながら着席した。
聖南に帰る気がないんなら、俺も帰れない。
「………綺麗、ですね。 …みんなもうカウントダウンしてるのかな」
「…………かもな。 あと何分だっけ……あ、二分前だ」
「あと二分…………」
もう間もなく、一年が終わる。
鬱々と過ごしたこれまでが、たった四ヶ月で激変した俺の人生。
いきなり聖南に捕まり、羽交い締めにされて、もがいて逃げ出して……また捕まった。
いや、捕まりに行った、のかもしれないな。
少しずつ聖南を知っていくうちに、いつの間にか俺は聖南の虜になってしまっていた。
この人が居なきゃ生きていけない、なんて、そんな風に想える人など現れるはずがないと悲観すらしていたのに。
恋すら知らなかった俺を全力で追い掛けてくれた聖南が、目の前で優雅にシャンパンを飲んでいる。
あのテレビでよく見る細長いグラスを、綺麗な指先で持って。
「葉璃と初めて過ごす年越しだろ。 忘れられなくしたかった」
「……………………」
ちょっと慌ただしかったけど、と、シャンパンを瞳に映したまま照れたように言う横顔がほんのり色付いてるのは、アルコールのせいなのか、照れのせいなのか。
見惚れるほどかっこいいその様を見詰めていたら、シャンパンを置いて時計を見て、ふと立ち上がるとこのテーブル担当のウエイターに「五分後に料理お願い」と耳打ちで言い伝えている。
そして俺のそばまでやって来て、緊張した面持ちの聖南に、どうしたんですか、って言おうとすると。
「3……2……1……」
「……………っっ……」
聖南が椅子の背凭れとテーブルに手を付いて俺を囲うとカウントダウンし始めて、そういう事かと思ってニッコリしていたら、0の前に熱いキスを受けた。
「…んっ……………」
こんなとこで!なんて言えないほど、珍しく聖南は必死に俺の唇と舌を味わっていた。
いつも余裕たっぷりで、キスの最中でも必ず俺をジッと見詰めてるのに、今目の前の聖南は瞳を瞑っていてそれはとても焦りを感じさせた。
「……葉璃、好きだよ。 愛してる」
「……………………はい。 …俺も、好きです」
本物のアルコールの味が口の中に残っていて、すごく照れながら俺も応えた。
最後におでこに軽くキスしてきた聖南は、席に戻ってまたシャンパンに口を付けている。
その姿はまるで、聖南も盛大に照れているかのように見えた。
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