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聖南の太腿に乗り上げて息巻いた。
「何してるんですか!」
「ん……?」
「仕事ですよね? 確かに動くなって言ったのにキスしてきたその人が悪いです。 俺もめちゃくちゃヤキモチ焼いちゃってます。 でも聖南さん、お仕事ですよ。 割り切って考えなきゃいけない時もあります。 怒ったらダメです」
「…………………………」
「聖南さん芸歴も長いしずっと売れっ子のまま今日まできてるでしょ? だから聖南さんが怒るときっと一大事に発展しますよ」
俺だけにしか触れたくないし、触れられたくないっていう気持ちはとても嬉しい。
それは俺もおんなじだから。
でもいくら嬉しくても、仕事を投げてまで操立てしてほしくなかった。
周りへの気遣いが出来て、仕事にも全力で取り組んできた聖南だからこそ、今までどんなスキャンダルがあっても周囲の支えや協力があったから乗り越えられたと思うんだ。
聖南が俺の存在のせいで感情を表に出してしまって、それが大きな揉め事と聖南の足枷になるのなら、俺は一緒には居られない。
男として、大人として、恋人としても尊敬してるからこそ、俺一人のせいで聖南の心を乱したくはなかった。
「…聖南さん、俺、聖南さんの事大好きです。 でも、俺の存在が周りに迷惑掛けてしまう事になるなら別れ……んっ」
周りにも、大事な聖南にも迷惑を掛けたくないから、別れるって言おうとしたのに、聖南は最後までそれを言わせてくれなかった。
後頭部を押さえられてて、なかなか離れてくれない聖南の執拗なキスが苦しい。
やたらと舌を絡ませてくる動きと、背中を撫で上げてくる手付きでうっかり流されてしまいそうだった。
「今なんか言いかけたろ。 さっきの、死んでも言うなよ。 俺から離れるなんて許さねぇ」
「でも聖南さん、怒ったって言うから…」
「そりゃキレるだろ。 ……でもま、葉璃の言う事が正解だ。 昨日俺がブチ切れて帰った後、夜遅くまで編集部は居残りで、モデルとそのマネージャーは所属事務所から大説教だったらしい。 俺に金積めば何とかなるか、とかそんな話まで出てて、今日現場まで来て謝るとかぬかしてたけど、俺も冷静じゃねえと無理だから断った」
「ほら、一大事になってるじゃないですか。 俺はそんな聖南さんは嫌いです」
「……………きっっ!?!」
俺がそう言い切った瞬間、聖南は自身の胸元をガシっと掴んだ。
俺もこの世界に足を突っ込んだ一人の後輩として、聖南のその仕事の態度は許せない。
まだつま先くらいしか突っ込んでないけど。
聖南とキスをしたその人の事は憎むべき対象だし、俺個人としてはほっぺたが破裂するくらい膨らませたいところだけど…それとこれとは話が別だ。
仕事をバシッとこなしてる聖南がほんとに大好きだから、一時の感情に流されてたくさんの人を困らせた聖南は、…嫌。
「キツイ。 その一言はキツイ。 撤回して」
「しません。 ちゃんとお仕事してくれるなら、撤回します」
「する、するから! 俺が甘ちゃんだった! 反省します! だから早く撤回して! 今度こそマジで穴空いた!!」
俺の両肩をがっしと掴んで必死に揺さぶってくる聖南が、何だか同年代に見えて可笑しくなったけど、そこは堪えて真面目な顔でもう一度聞いた。
「ほんとですか? ちゃんと謝罪受け入れてあげますか? お仕事こなしますか?」
「こなす! こなします! 謝罪でも何でも受け入れる! だからさっきの…」
「聖南さん、大好きです」
聖南の、こんなに必死な様は初めて見た。
ぎゅっと抱いてあげると、聖南もきつくきつく俺を抱き締めてきて、心なしか指先が震えているような気がした。
不安にさせてごめんね、聖南。
でも、俺の大好きな人が、俺のせいでよくないループに入るなんて耐えられないから。
周囲に居る人達や、一つ一つの物事を大切にしなきゃって思えたの、聖南のおかげなんだよ。
俺に教えてくれた事を、聖南自身が忘れちゃダメだろ。
そんな思いで聖南の髪を撫でてやりながらも、聖南にキスをしたモデルっていうのが頭にチラついて、ギリギリっと奥歯を噛み締めてしまうのは、……しょうがないよな。
「やめろよ、マジで……一瞬、葉璃が俺から離れて行くって思ったじゃん……」
「そのつもりでしたよ。 聖南さんが頑なだったら」
「マジでやめて! もうその話はおしまい! ちゃんと元通り仕事できるよーにうまくやるから。 ほんと勘弁して…」
「モデルやめよっかなーって言ってたの、気は変わりましたか?」
「やめねぇよ、絶対。 向こうから拒否られるまで続ける。 その代わり、どんなシーンあってもヤキモチ焼くなよ」
聖南はさっきのお返しとばかりに俺の鼻先をきゅっと摘んできた。
まだまだ表情は引き攣ってたけど、聖南が考え直してくれて良かった。
聖南があのまんまだと、絶対に他の仕事にも色々影響が出てくる。
それだけは避けたかった。
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