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39☆ 16・アキラとケイタ、そしてセナ×ハル
☆
懲りない荻蔵は、女と約束があるからとニヤけつつパーティー終了を待たずに着替えて帰って行った。
アキラ、ケイタ、セナの三人は、社長の懇願の視線もあってパーティー終了までそこに居た。
その場に残っていた者達と軽く挨拶を交わし、事前に聞いていたハルの部屋の前へとやって来たはいいが、先程から何度となくノックをしているにもかかわらず一向に返事がない。
「フロント行ってスペアもらってくるわ」
「え、貰えないんじゃない? プライバシー何チャラで」
「他人だったら、だろ。兄貴のフリすっから」
「ひぇ〜そんな悪知恵を!」
「とりあえずノックし続けてみて」
セナが当然のように嘘を吐きに行く背中を二人で見送った後、ケイタは言われた通りノックをし続けてみた。
成長痛だと聞いて気になっていた二人は、着替える前にここへ寄ってハルを一目見てから帰るつもりだ。
ここ何ヶ月かで、二人もセナ同様にハルを過保護に扱っている事に、当人達は気付けていなかった。
「…………はーい……」
「あ、ハル君!」
「ハル!」
セナが戻る前にノックで目覚めたハルが、うさぎのままで目を擦りながら扉から顔を覗かせた。
「あれ、アキラさんとケイタさん……? パーティー終わったんですか?」
自然と部屋の中に入れてくれた事に、強固だったハルの隔たる壁はもはや全くないんだと、大袈裟にも二人は内心で喜んだ。
シンプルなシングルルームには、シングルベッドとテレビ台、クローゼット、一人掛けソファしかなく、目を擦るハルは自然と、たった今まで寝ていたであろうベッドへ腰掛けた。
いつもの大きな瞳は半分ほどしか開いておらず、今にもまた寝てしまいそうだ。
「終わったよ。ハル君寝てたんだね」
「ごめんな、起こしちまって」
「いえ、……大丈夫です。……んー……っ」
すでにハルはうさ耳を付けている事すら忘れていそうで、背伸びをして耳を揺らしている姿はとても高校生には見えなかった。
アキラとケイタも上背があるので、余計にハルが小柄に見えてそう感じるのかもしれない。
「お、葉璃起きたの?」
セナはスペアキーを持って勝手知ったるで部屋へと入ってきた。
無事に兄貴に成りすます事が出来たらしい。
「ごめん葉璃、寝てたんだろ? アキラとケイタがハルに会ってから帰るって聞かねぇから。っつーか何この部屋。上行こ、上」
「もうハル眠そうなんだからさぁ、移動させんなって」
「いいじゃん、ここでも。寝られれば」
「抱っこしてくから大丈夫。ほら葉璃、おいで」
二人の制止も聞かず、セナは寝ぼけ眼の恋人へ両腕を広げると、うさ耳のままのハルは迷わずその腕に飛び込んだ。
一度ぎゅっとその体を抱き締めて抱え上げると、セナは、アキラ達どうする?と二人に問い掛けた。
ハルと話があるなら一緒に来るか、という事らしいが、アキラもケイタもさすがに空気を読んで首を振った。
「お邪魔だろうから帰るよ」
「ハル君に、またねって言っといて」
「おぅ。じゃまた明後日な」
「……アキラさん、……ケイタさん、……お疲れ様でした、……おやすみなさい……」
穏やかな表情のセナの肩口から、意識が飛ぶ寸前のハルがペコッと頭を下げてきたので、アキラはハルの背中を、ケイタはだらんとなった腕をそれぞれ擦り、「おやすみ」と声を揃えて言った。
バカップルを見送る最中、シングルルームの扉がパタン、と閉まる。
その音がやけに大きく響いて、アキラとケイタはその物音で一気に酔いが覚めた気がした。
穏やかそのものな温かい時間を、垣間見た。
羨ましいとか、本当に大丈夫かよとか、外野が何を思っても無駄な世界が二人の中に確かに在る。
セナもハルも、何だかとても愛おしい。
二人にとってセナとはすでに兄弟のような間柄なので、そこに末っ子のハルという弟が出来た、家族が増えた……この温かな気持ちは、まさしくそんな感覚であった。
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