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41★ 2・葉璃との学校生活は、楽しいです。

 セナさんがコンビニで大量に買い込んだという食べ物のおかげで、クラスメイト達は葉璃との接触の糸口を見付けたようで親しげに話し掛けている。  俺は二年に上がって葉璃とはクラスが離れてしまったから、移動のない休憩時間や昼休みくらいしか一緒に居られないけど、ぎこちなくも葉璃は頑張って笑顔を見せようとしてるみたいだった。  「まだ正直、疲れる……」と俺にだけ漏らす本音を聞くと、あと少しで慣れてくるよって思いと、そのまま慣れなくていい、友達は俺だけでいいでしょって思いが交錯してしまう。  俺はなんて、嫌な友達、なんだろう。  春香ちゃんの影武者の事もなかなか話してくれず拗ねていた所に、まさかあのCROWNのセナさんとの秘密の関係を暴露された時なんて、嫉妬に似た感情が湧いてしまった。  俺にだけ笑い掛けてくれる葉璃が、事務所のトップアイドルであるセナさんと恋人同士だなんて、本当は信じたくなかった。  女癖が悪いって事は事務所全体に、何なら俺達スクール生にまでその噂は広がっていたからだ。  実際に俺はスクール帰りに、セナさんが綺麗な女性と二人でいるのを目撃した事もある。  だからこそ、葉璃がセナさんとセックスしただなんて信じられなくて裸を見せてもらった事もあった。  俺は行為の相手にあんなにたくさん痕を残したりしないから、それがどれだけの痛みを伴うか想像も出来なくて、赤い鬱血が滲む血のように見えて思わず触れてしまいそうになったけど、葉璃はパタパタと逃げてしまった。  セナさんは葉璃を好きだって言ってる、葉璃も、セナさんを好きだと思っている。  それなら少し様子を見ようじゃないかって思いで、迷い戸惑う葉璃の背中を押しておいた。  たとえセナさんが相手でも、葉璃を傷付けたら承知しないと思いながら。  でも、あの後からセナさんと葉璃はとても順調にうまくいっているようだ。  葉璃が日に日に煌々と輝き始めたのは、それは紛れもなくセナさんのおかげ。  俺は、葉璃との友人関係は惰性を望んでしまっていたから、葉璃の良さを引き出してあげられなかった。  毎日違う葉璃の顔を見ると、セナさんの導きが上手である事は間違いない。  日ごとに良い方へ変わっていく、俺の大切な親友。  そばに居てあげることしか出来ない不甲斐ない俺でも、葉璃にとっての無二の親友で居たい。  そんな我儘な俺は今、教室で四限の数学の授業中。  葉璃は外で体育みたいだ。  運動場でも一際輝く葉璃は、教室からでも一瞬で見付けられる。  この一年、窓際の席をキープし続けたのは、こうして葉璃の姿を見るためだ。  もうじき春休みに入って、その後は進級だからか、授業とは名ばかりで体育という名目だけでそれぞれが好きな事をやっている。  動きの鈍い葉璃は、きっとまたセナさんとの情事の後なんだろう。  サッカーや野球、バスケットにと次々に誘われるも、葉璃は苦笑しながら首を振って日陰に腰掛けた。  その様子を見ていた俺は、そっと窓を開けた。開閉音に、葉璃が振り返って見上げてくる。  目が合った。 "あ、恭也だ。"  そんな心の声がした。  瞬間、葉璃は目元を細めてふわりと微笑んだ。  誰にでもなく、俺にだけのいつもの可愛い笑顔を見せてくれた事が嬉しくて、俺も笑い返した。  前髪のせいで、葉璃には俺の笑顔はほとんど見えていなかっただろうけど。

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