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41★ 5・葉璃の周りは賑やかです。

 翌朝、家を出る前に掛けた電話でちゃんと起きていた葉璃を連れて、病院へとやって来た。  診療開始は九時からのはずなのに、俺達が到着して表に名前を書いた八時半の段階で二十五番目だった。 「ごめん恭也……退屈させちゃうな」 「大丈夫。葉璃と話してたら、あっという間だよ」 「ありがと。優しいな、恭也は」  申し訳無さそうな葉璃に、気にしないでと微笑んであげると、葉璃も微笑み返してくれる。  セナさんが構い倒したくなる気持ち、すごくよく分かるくらい、葉璃は可愛い。  こんな儚げな見た目と同じ、本質は素直で真っ直ぐなはずなのに、長年培われてきたネガティブで卑屈な所はまだまだ片鱗を見せていて、そこもまた面白い。  見た目もさることながら、中身も男心を存分にくすぐるから、セナさんはさぞ心配だろうなぁと思う。  あまりに外で待つ患者が多いからか、看護師さんが早めに入り口を開けてくれた。  数列並んだ長椅子に、人見知りな葉璃を壁際の方に座らせる。  隣に知らない人が来て、話し掛けられでもしたら、葉璃は一瞬でフリーズするからだ。 「……葉璃にだけ、だよ。優しいの」 「またそんな事言ってる。俺にだけじゃなくていいってば。今まで聞いた事なかったけど、恭也それだけかっこいいんだから、彼女とかいないの?」  何気なく言い放った葉璃の言葉に、俺の方がフリーズしそうになった。  言うべきか迷ったけど、葉璃に嘘は吐けないからそっと呟く。 「……それっぽい人は、いるよ」 「え!?」  すると葉璃は、大きな瞳を溢れんばかりに見開いて、俺の顔をジッと見てきた。  どう見てもこの顔は、愕然としてると言えた。 「……話すほどの事でもないかな、と思ってたけど……その反応は、話しといた方が良かった、みたいだね……?」 「……そ、そうなんだ……いるんだ……」 「……葉璃?」  そんなに動揺させてしまうとは思わなくて、窓の外一点を見詰めたまま動かなくなった葉璃は、急に殻に閉じこもってしまった。  話し掛けても上の空で、一時間経ってもそれは続いた。  ……どうしたのかな。  葉璃にとって嫌な事を話してしまったんだろうか。  俺に彼女がいるっていうのは、もう高一の頃からだ。  街で声を掛けられて、無口な俺を嫌うわけでもなく、笑うわけでもなく、何となく付き合い始めてそれからもうニ年くらい経つ。  あんまり構ってあげていないから、彼女と呼べるのかは分からない。  なんたって俺の一番は葉璃なんだ。  だから「っぽい」って言ったんだけど。

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