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キスシーンの余波は確かに俺の心を打ち砕いた。
だけど聖南は、それを秒で元に戻してくれた。俺がぐるぐると思い悩む前に行動に移して、それが後々どんな余波が待ってるかも厭わないで世間に宣言した。
曲が終わると、当然ながらアキラさんとケイタさんはやや疲れ気味だった。
『セナはマネージャーからの電話で退席してまーす』
『ちなみにスタッフの携帯も鳴り止みませーん。パソコンも壊れそうな勢いでメッセージ届いてまーす、ありがと〜』
『……いやぁ、リスナーもそりゃ驚くよな』
『マジのトーンだったからな〜。もうこの際だからぶっちゃけるらしいよ。みんな、セナが戻ってくるまであと少し待っててねー』
── えぇっ!? いい、ぶっちゃけなくていい!!
俺は、本当なら聖南を止めるためにスタジオに飛び込んで行きたかった。
スタッフの携帯も鳴り止まない、リスナーさんから鬼のように届く大量のメッセージ、マネージャーの成田さんからの電話……早くも聖南の交際宣言はあらゆる方面へ広がりを見せている。
アキラさんとケイタさんが聖南の話題で場を繋いでいると、呑気な張本人が戻ってきた。
『悪い悪い、あと何分だっけ? ……十三分か。質問あんなら答えてやっから』
『戻って来て早々だね』
『もうとっくに追えないくらいメッセージきてるよ』
『いいよ、ファンの子の質問なら答える。ここで言っとくけど、取材には一切答えないからマスコミ各社の皆さんそこんとこよろしく』
『勝手だな。……時間ないから手早くいくよ。恋人とは誰ですか?』
『言えるわけねーじゃん! それは質問って言うのか!?』
『でもこの質問が一番多いんだって』
『ぶっちゃけるって言ったけど限度があるわ。まぁ言える事は、とにかくかわいーよ』
『……ヤバイ、マジで俺のパソコンぶっ壊れる。セナが話す度にパソコンが熱くなんだけど』
『見せて。……セナさんが恋人いますって発言するのは初めてですね、かぁ。あぁ、そうだな〜。後にも先にも恋人いますって言うのこの一回きりだな。俺がめちゃくちゃ惚れてっからさー』
── ダメだ、もう聴いてられない。
誰が聞いても惚気としか受け取られない事を、聖南は正直過ぎるくらい喋り続けていた。
イヤホンを外した俺は、どういう顔をしていればいいか分からないから、とにかく両手で熱くなったほっぺたを覆った。
さっきとは明らかに違う戸惑いが俺を支配している。
何も怖くない。何も心配するな。
そう言ってうっそりと笑う聖南の言葉が、間近で聞こえた気がした。
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