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アップルティーを熱いうちに飲み干した頃、ようやく聖南の電話は終わり、深夜ともあって続けての着信が無くなってやっとスマホが落ち着いた。
「あーしんど。 誰と何話したかも覚えてねーや」
イヤホンを外しながら聖南はコーヒーに口を付けてぼやいた。
「お疲れ様でした。 って、全部聖南さんが発端なんですけどね」
「しょうがなかったんだよ。 葉璃がぐるぐる考え込んでっから」
「そうは言ってもですね、もう少し違う方法なかったんですか?」
「………ないね」
「そうですか…」
開き直った様子の聖南にはもう迷いなど微塵もなく、俺はそれ以上何も言えなかった。
恋人がいるって宣言しただけで、その相手である俺については本当に口を割らないつもりらしいから、アキラさんが言ってたようにもう聖南に任せておくしかない。
たとえ俺がジタバタしたって、マスコミの集中攻撃は聖南にしか向かわないんだから、そこへ俺が出しゃばると話がややこしくなる。
「世間にも芸能界にも俺の恋人の事は広まるだろうから、葉璃は何も心配しなくていいんだからな。 黙って俺だけ見とけ」
「……勇気ありますね、聖南さん。 本音を言うと、……嬉しかったです」
「嬉しいって思ってくれたんなら、大成功だ」
ニコッと笑った聖南は、俺の濡れた髪を撫でてシャワーを浴びに行った。
些細な事かもしれないけど、聖南の笑顔を見る度にすごく幸せな気持ちになる。
聖南が居なくなったソファに残った俺は、背凭れにこてんと頭を乗せて瞳を閉じた。
俺を離さないって世間に向かって宣言してくれたようなもんだから、俺は聖南から離れなくていいんだって安心させてくれたのは確かだ。
まだ付き合う前、俺の家で告白された時、「男同士でも好きだったら関係ねぇだろ?」ってあっさり言ってくれた聖南は変わらず、いや、あの頃よりもっともっと俺の事を好きでいてくれてる。
一緒に暮らしたい、家族になりたい、そんな思いを抱いてくれるまでになっていて、そこまでの愛情を全部受け止めてあげられたら、俺だけじゃなく聖南も心の底から安心するはずだ。
けれど俺はまだまだ子どもで、聖南の愛を全部は受け止めきれない。
きっと俺がブラックコーヒーを飲めるようになるくらい大人になれば、両手を広げて聖南を抱き締めてあげられると思う。
まずは俺が一段ずつ聖南の背中への階段を上がって、手が届く位置にまで行かなきゃいけない。
聖南の大それた発言が肩透かしに終わらないように。
大好きな聖南、もう少し俺がぐるぐるしちゃうのを許してほしい。
大好きなんだよ、ほんとに。
だけど、相手が今の俺じゃ役不足なままだから、俺は成長するんだ。
聖南の隣に居ても不安なんか一蹴できるくらい、大きくなるから。
俺の不安をすべて理解してくれて、背負ってくれて、動揺と戸惑いを喜びに変えてくれた聖南。
あなたの背中は俺にはまだすごく眩しくて、時折目を細めてしまう事があるよ。
甘えたがりで、人肌恋しいのか密着癖のある聖南も、ひとりで悠然と矢面に立ってくれる強く逞しい聖南も、俺はどちらの聖南もほんとに大好き。
聖南にいつまでも笑っていてもらえるように、俺もがんばるから。
ずっと、そばにいさせてね。
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