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 打ち合わせがあると聞いていた会議室へ揚々と歩いていると、前方からいけ好かない顔が見えて回れ右しそうになった。  だがそれは逃げを表しているようで、そんな格好悪い事は出来ないと無表情を貫く。 「CROWNさんじゃないですか。お疲れ様です」 「あ、memoryのマネージャーだ!」 「お疲れっす」 「佐々木です。ご無沙汰しております」  深々と三人へ律儀に礼をするこの佐々木が、昔相当な悪だったと知るのは、聖南と葉璃だけだ。  葉璃に至っては当時の佐々木の写真をも見た事がある。 「セナさん、大それた事しましたね」 「……もう回ってんの」 「当然でしょう。私なんかラジオ聴いてましたから、リアルタイムで耳にしました」 「は? 俺らのラジオ聴いてんの? いいよ、聴かなくて」 「それは好きにさせて下さいよ。……恋人は大丈夫なんですか? あんな事公表してしまって」  人目を気にした佐々木が聖南の耳元で葉璃を心配していたが、鼻で笑ってやった。 「大丈夫も何も、昨日もたっぷり愛し合ったから問題ナシ」 「……見せ付けてくれますね。ようやく忘れられそうなのに、想像してしまうじゃないですか」 「あ!? 想像すんなよ!」  フッと不敵に笑う佐々木はやはり何を考えているのかまったく読めず、聖南はこの佐々木という男がまだ信用しきれない。  少しでも隙を見せると葉璃にちょっかいをかけてきそうな、そんな危ない本気度を感じる。 「冗談ですよ。あ、でも夜のアレの手助けの際は大目に見てください」 「やめろよ! 大目に見れるわけねーじゃん!」 「セナ、時間だから俺ら先行くぞ」 「いや、俺ももう行く。じゃな、眼鏡マネの佐々木サン」 「お疲れ様です、葉璃によろしく。副総セナさん」 「おまっ! それもう忘れろよ!!」  もう行く、と言いながら佐々木の言葉にいちいち引っ掛かる聖南の腕を掴んだアキラは、一礼してその場を後にした。 「あいつマジでいけ好かねー!」 「声でかいから」 「もう変な事で注目浴びんの嫌だからセナ落ち着いて」  ただでさえ目立つのに、とケイタは不満を漏らし、またスマホをいじり始める。  アキラに背中を押された聖南が会議室へと入ると、交際宣言を知るスタッフにニコニコで迎えられ、そこでもまた質問攻めに遭った。  野次馬精神抱負な業界人ならではの捻った問いに、危うく葉璃の名前がポロッと出てしまいそうになったが、アキラとケイタのさすがのフォローに助けられて打ち合わせは無事終了した。  聖南の仕事は今日はこれで終わりで、後は家で作曲を進めればいいのでようやく葉璃の待つ自宅へ帰宅できる。  夕方を終了目処にしていたがまだ三時を過ぎたくらいなので、葉璃を自宅に送り届ける前に少しばかり一緒の時を過ごせそうだ。 「お疲れー」 「セナ、アキラ、お疲れ〜」 「あ、セナ。ここの重役と話してかなくていいのか? いっつも来る度に長々話して帰んじゃん」 「今日はいいや。家で待ってっから」  ここだと誰が聞いているか分からないので、葉璃の名前は極力出さない。  二人もそれが分かっているため、そこは深堀りせずに三人は解散した。

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