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コンシェルジュに、部屋から連絡は無かったと聞いて急いで弁当を持って自宅へ入ると、葉璃がリビングからちょこちょこと歩いて来て、聖南を出迎えた。
「おかえりなさい、聖南さん」
この言葉を聞きたいがために、今日一日頑張った。
近付いてきた葉璃は朝とは違う白のパーカーを着ているので、あの後またシャワーを浴びたらしいと分かって笑ってしまう。
「ただいま。 …いや、てか葉璃、メシ食わなかったの? コンシェルジュの連絡の仕方教えといたよな? 分かんなかったか?」
「え? いや、分かりますけど、何でコンシェルジュさんに連絡するんですか?」
葉璃が甘えるように聖南に擦り寄ってくるので、その体を抱き締めてやりながら「腹減ったろ」と呟くと、きょとんとしたまま葉璃は見上げてきた。
『かわいー。 いつ見てもかわいー』
視線で人を悩殺させられるほどの葉璃の瞳にクラクラしたが、早く弁当を葉璃に与えてやらなければという思いも強かった。
「葉璃、メシはコンシェルジュに連絡して届けてもらえって言っといたろ?」
もう冷めてしまっているので、電子レンジしか温める術がない。
葉璃から離れて電子レンジに弁当を入れると、ピッとボタンを押して聖南に付いてきた葉璃を見た。
「あ! そうだ、そう言われましたね、確か。 思い出した」
「そういや眠そうにしてたから聞き過ごしたんだな? ったく…弁当冷めちまったけど温めてっから食べような。 何か食いに行くかって言いてーけどこれ捨てるわけにいかねぇからさ」
「十分ですよ! なんなら俺、コンビニの廃棄処分のお弁当でも平気で食べられますよ!」
「そこまで言ってねーよ」
常備しているペットボトルのお茶をダイニングテーブルに運んでいた聖南は、葉璃の言葉に吹き出してしまった。
良かった、葉璃がものを粗末にしない子で。
レンジから温まった弁当を出して、テーブルに置く。
聖南の目に狂いはないと教えてくれる葉璃の言葉に感動すら覚えた。
聖南は長く芸能界に居るためかなりの額を所有しているが、独り暮らしもベテランなので、あまり物を腐らせたり無駄にしたりという事が嫌な性分だった。
自炊しようと買い込んだ食材を忙しさにかまけてすべて腐らせてしまった時、罪悪感に苛まれてそれからは無駄に買い物もしないようにしている。
今ここにある弁当を前に「冷めたんなら捨てて外に食べに行きましょう」と言われたらどうしようかと思った。
「二個ありますよ、何で俺のとこに並べて…」
「どっちも葉璃のだから」
「いや、だから俺を大食いキャラにするのやめてくださいよっ」
「俺さっき局の弁当食ったんだよ」
葉璃なら三つはいけるだろ、と聖南は言おうとしてやめた。
自分が可愛くて注目を浴びがちだという事も、実は大食いである事も、聖南だけが知っていればいいかなと思った。
キャラではなく、実際かなり食べる方なのだと思うのだが、本人は気付かないものなのだろうか。
コンシェルジュが用意していたのは近所のお惣菜屋さんの人気弁当らしく、慣れ親しんだ味に葉璃の箸は止まらない。
一つ目を食べ終えそうな時、聖南がもう一度「俺もう食えないから葉璃食ってよ?」と言うと、初めての食事のように勢いは衰えず二つともあっという間に完食した。
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