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「麗々がボイスレコーダー持ってたからだよ」
「…………?」
「迫ってくるアイツに、ボイスレコーダー持ってんの分かってて、面倒だったから俺は恋人いるってぶっちゃけた。 アイツは今後モデルとして下火の一途だろーから、逆恨みされてそれマスコミに流される前に、俺が言わなきゃいけなかった」
去年のスキャンダルが記憶に新しい聖南は、その事もかなり危惧していて。
麗々がある事ない事吹聴しながらあのボイスレコーダーをマスコミにリークしたら、いよいよ聖南が危機的状況になるのは目に見えていた。
聖南を手に入れようとこちらの事務所までボイスレコーダー持参で出向いた神経の図太さからして、麗々はやり兼ねない。
謝罪に行ったら聖南に迫られた、と、ボイスレコーダーの中身を麗々の都合よく編集した後、世間に晒されるかもしれないのが分かっていて、手を打たないわけにはいかなかったのだ。
葉璃を安心させてやりたい、不安など感じなくて済むように公に宣言して葉璃の心までも縛れたら、という思いと、この麗々の件が一割乗っかった交際宣言だった。
「……なるほど」
いつになく聖南が真剣に語った事で社長も真摯に受け止めてくれたようだ。
聖南にとっては父親代わりでもあるこの社長には、いつか葉璃との事を打ち明けたい。
もし反対されたら、という不安は消えないけれど、何故かこの社長なら戸惑いながらも祝福してくれそうな気がした。
「社長には分かっててほしい。 俺は今付き合ってる子が生涯の相手だと思ってる。 俺の過去も全部話した」
「ほう、過去をもか。 ……そうか。 …セナの事は信頼しているよ。 いつか話してくれる時まで待つさ」
「ありがとう。 事務所大変だろーけど、こないだのスキャンダルみたいに一週間もあれば騒ぎは落ち着くと思うから、幹部連中とスタッフにもそう言っといてくれると助かる。 俺がマスコミにごちゃごちゃ言うと、なかなか余波が切れねーかもしんないから何も言わねーよ」
「そうだな、その方がいい。 ともあれ、相手が心配だな。 今の世はすぐに相手を割り出されるぞ」
「それは1000%大丈夫。 断言する」
たまに聖南の自宅にやって来る葉璃を恋人だとは誰も思わないだろう。
たとえ顔を割り出されても、もうじきデビューを控えた事務所の後輩だと調べればすぐに分かるはずなので、マスコミも追いようがない。
女好きな聖南がよもや男に走るとは誰も想像も付かないはずだと、そこからの断言だ。
「なかなかの自信だな」
「任してよ」
二人はフッと笑い合って、煎餅をかじった。
聖南は香ばしい美味しさのあまり三枚目に突入していたが、煎餅は結構腹にくるなと、少し時間が経って食べ過ぎた事を後悔した。
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