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社長との話を終えた後はツアーのスタッフと少し話をして、聖南はたまたま事務所に来ていたCROWN作曲担当者の一人である後藤という男とバッタリ出くわした。
「あ、セナ。テレビ見たぞー。ついにあの恋愛小説みたいな歌詞の相手を暴露ったな」
「お疲れーっす。いやぁ、タイミング見てたけど今しかないって感じだったから」
会う人皆の第一声が今や聖南の交際宣言についてなので、マスコミに追われるよりも業界関係者の追及の方が疲弊してしまいそうだ。
「何はともあれおめでとうだよ。それより曲作りは順調?」
「一応やってはいるけど、あれ誰かにあげなきゃなんないの?」
「そのつもり。思いの外、あの子達のデビュー曲の前評判がいいんだよ、内々でだけど。セナがやる気あるなら、プロデュース業にも力入れてほしいな」
「俺が? 無理だろ」
「いや本当にな。真面目な話」
後藤は至って真剣な顔付きであったが、聖南の方は「えー」と気乗りでないのを隠そうともしなかった。
いつもの聖南の様子に後藤も慣れたもので、「ま、考えといてよ」と肩を叩いてくる。
「てかあの曲いつまでに上げりゃいいの?」
去ろうとした後藤を引き留め、聖南はまだ微妙な表情を崩せないままだ。
葉璃達のデビュー曲は、元々はCROWN用に仕上げようとしていたので誰かのために曲を作るなど考えられない。
そんな事を考え付きもしなかった。
「CROWNのツアー前に上げてもらえたら嬉しい。候補が何組か居て、上がった曲と合いそうなグループ選ぶつもりなんだ。セナにはツアー終わりに本格的に関わってほしいから、実はまだまだ先の話」
「関わるって……俺が?」
「そう、セナが」
「あー……マジか。それ頭に入れとかなきゃなんねぇわけね」
ツアーが終われば葉璃達のデビュー日も過ぎているだろうし、本格的に関わるならそっちに関わりたかった。
同時進行もいけなくはないだろうが、聖南の現在のスケジュール的にキツイものがある。
「ちなみにグループって女? 男?」
「それが、どちらも候補に上がってるんだよ」
「マジかよ。それだけでも分かってたら歌詞もやりやすいんだけどなぁ、しゃーねぇか。とりあえず上げてみるわ」
「よろしくな!」
聖南が知りたかった事は一つしか聞けなかった。
やはり葉璃達ではない違う誰かに、聖南の作った曲を提供しなければならないらしい。
── 全っ然気が乗らねぇな。どうしよ。
ツアー前にと言ってもあと二ヶ月弱しかないので、仕事の合間に少しずつ上げていかなければ間に合わない。
その前にツアーのリハーサルも入るだろう。そうなると作曲活動に費やせる時間はもっと少なくなる。
ますます葉璃との時間が取れなくなりそうで嫌だけれど、嫌だとごねたところで何も変わらない。
聖南が妥協などすれば、葉璃からまた強烈な一撃を食らう羽目になる。例の大事な約束は絶対に守らなければ、また胸に巨大な穴が空いてしまう。
〝仕事をちゃんとしない聖南さんは嫌い。〟
こんな痛烈な事を言われてはたまらない。聖南はとにかく、気乗りしなくても頑張るしかないのだ。
せっかく築いた葉璃との静穏のために。
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