45♡ 聖南の交際宣言は一週間ほど経つと鎮静化しつつあった。 あまり聖南が深く語らない事で、マスコミは諦めに似た憶測の報道をするしかなくなってる。 テレビ番組に出るとその話題ばかりをふられるのにも関わらず、聖南は嫌な顔一つしないで対応していた。 むしろ幸せいっぱいに「最高っすよ」ってどこででも言うから、報道直後は驚愕と悲鳴の嵐だった世間もだんだん祝福ムードに変わってきている。 ファンの人達も一貫して聖南の幸せを望む声が多く、去年スキャンダルがあった事で余計に、聖南が本命だと公表するなんて相当本気なんだと思われているみたいだ。 俺の交際宣言で引っ張んのは一週間が限度だろ、って聖南が言ってた通りになっていて、芸歴が長いと報道の流れも読めるようになるんだ、ってさらに聖南への尊敬が増した。 そんな聖南から、いよいよツアーのリハーサルに入ったと連絡があったから、さらに会えなくなるのは必至で、少しだけ…寂しい。 でも俺も寂しがってる暇なんて無くて、学校では新しい学年に上がって三年生になると、大学受験の準備で始業式の翌日から授業も慌ただしい。 学校終わりのレッスンは、CROWNのツアー同行のためのダンスレッスンもプラスされたからこれまで以上に毎日ヘトヘトだ。 一つ嬉しかったのは、三年に上がったら恭也とまた同じクラスになれたこと。 嬉しかったのは俺だけじゃなくて恭也も同じ気持ちだったみたいで、少し席が離れてるのに休み時間の度にそばに来てくれる。 「葉璃、次移動だから…行こ」 「うん」 恭也の鬱陶しかった前髪は、春休み前くらいからもう自然に後ろに流してあって顔面を晒しているし、背筋もしゃんとして長身なのも手伝ってなのか、やたらと女子に注目されていた。 相変わらず俺も恭也もバリケードを張ってるからあんまり話し掛けられはしないけど、以前に比べたらクラスメイトと交流を持つのも苦手じゃなくなってきてるし、色々と良い変化はある。 気持ちを変えるとこんなに楽なんだって分かってからは、俺もなるべく話し掛けられたら対応するようにしてるから、孤立するって事が無くなった。 聖南との付き合いが多大な影響を与えてくれてるって分かるから、今まで逃げてきた事に向き合うように努力しなきゃって、そんな心境。 「葉璃、今日のレッスン終わりに事務所寄って下さい、だって」 化学実験室で班毎に別れて着席する中、出席番号の関係で違う班だった恭也が俺の元へやって来てコソコソと耳打ちしてきた。 俺達がデビューするという事を周りに悟らせないようにって言われてるからだ。 「え？ 林さんから？」 「そう。 葉璃にも連絡いってると思うけど」 「今電源落としてるから分かんなかった。 何だろ？」 レッスン終わりに事務所へ寄れだなんて、初めてかもしれない。 恭也と顔を見合わせて頷き合うと、ちょうどそこに教師が入ってきたからとりあえずは授業に集中する事にした。