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アキラさんの車は白いセダンタイプのベンツだった。
左ハンドルだから俺は右に座ってるけど、聖南もアキラさんもケイタさんも良い車に乗り過ぎだと思う。
助手席に乗るだけで緊張するじゃん…。
縮こまってると、アキラさんがイヤホンを手渡してくれた。
「何ですか、これ?」
「社長には俺が行く事話したんだ。 そしたら通話繋いどいてくれるらしい」
「え! もしかして、会食中の…?」
「うん。 社長も相当心配してるみたいで、もしセナが取り乱したら迷わず助けてくれって言われた」
そんなに心配されるほど聖南は決死の覚悟で会食に挑むんだ…。
過去を知る俺は、聖南が取り乱したら助けてくれって言葉に驚きなんかしなかった。
十分、あり得る話だからだ。
もし俺が聖南の立場だったら、きっと冷静に話をするなんて無理で、些細なきっかけでも激情を呼び起こしてしまう。
「聖南さん、大丈夫かな……」
とても趣のある料亭さくらを越えて、聖南にバレないように少し離れた場所のパーキングにアキラさんは車を停めた。
車中でもずっと聖南の話をしてくれたアキラさんは、強いようで物凄く壊れやすい聖南を見てきたと語っていて、子どもの頃は今以上に情緒不安定だったと教えてくれた。
俺はごく普通の家庭で育ったから、聖南の気持ちを少しも分かってやれない。
どんなに苦しかったか、寂しかったか。
無条件に愛してくれる存在を知らない孤独を、聖南はたった一人で乗り越えてきた。
「……うっ………」
聖南達が到着する前に料亭内の個室へ入り、アキラさんと横並びで座布団の上に体育座りした。
あまりに不毛な子ども時代の話に、聖南本人じゃなくそれを端から見ていたアキラさんの話は俺により馴染みやすくて、涙が止まらなかった。
「あいつ昔、絶対俺は親にはなれねーって漏らしてたから、何でだって聞いたことあったんだ」
「……うぅ、……はい……」
「愛された事がねーから、俺は人を愛せねぇ、愛し方が分かんねーもん、って言ってた。 CROWNとして活動し始めたくらいだったから、まだ高校生の時だぜ。 そん時にはすでにセナは何もかも諦めてんだと思ったのよく覚えてる」
俺の頭を撫でてくれながら、アキラさんがティッシュを差し出してくれたからそれを箱ごと抱いて鼻をかんだ。
そんな切ない事を平然と言う聖南が容易に想像出来るって、すごく寂しい事だと思う。
俺自身でさえも、そう悟ってしまうだろう。
親っていうのは、それだけ子どもにとっては絶対的な愛の象徴なんだから。
求めたくてもその方法すら分からない、与えられるもののない毎日はどれほど無だった事か…。
「だからさ、ハル。 俺はセナがハルに夢中になってんの見てるとすっげー嬉しんだよ。 愛し方分かってんじゃんって思う。 セナが入院してる時、俺が病院で言った事覚えてる?」
「……聖南さんは二つの顔を持ってる、バカ正直で明るい聖南さん、何でも一人で抱えて頑張り過ぎて自爆する聖南さん…。 あと、何があってもよろしくなって、そう言ってくれました……ううっ……」
「よしよし、もう泣くなって。 すげぇな、一言一句覚えてんじゃん」
「はい……まだよく知りもしなかった俺に、アキラさんが言ってくれた事ですから……」
しょっちゅう鼻をかんでいる俺に、アキラさんが困ったように微笑んでくれながらイヤホンを片方装着した。
まもなく18時になるらしく、隣の個室に招き入れる仲居さんの声と、人の出入りする音が聞こえた。
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